DeNAのドラフト1位、度会隆輝が5月16日に2軍落ちとなった。オープン戦では打率4割3分4厘で首位打者になり、僕も注目していた選手。開幕2戦連続でホームランを放つ華々しいデビューを飾ったが、プロの世界は甘くなかった。データが集まれば、弱点を徹底的についてくる。度会の課題は明白。ボールになる変化球にバットが止まらなかった。
1軍では打率2割3分1厘で、スタメンを外れることが増えていた。筒香の復帰で外野の層が厚くなったのも、出番が少なくなった理由やった。それでも華のある金の卵で、ベイスターズの将来を背負って立つ素材であるのは間違いない。「ベンチに座らせておくぐらいなら、2軍で試合に出した方がいい」という首脳陣の判断も当然やと思う。
度会は腐ることなく、飛躍するチャンスと捉えて、練習に取り組まなアカン。僕も度会と同じく高校から社会人を経てのプロ入りで、開幕から1軍入りさせてもらった。僕の場合は度会のようにスタメンではなく、代走や守備固め要員やった。西本監督にファーム行きを命じられたのは、オールスター前やった。「盗塁の練習をしてこい」と言われたけど、2軍では打撃練習ばかりさせられた。
当時の2軍監督が付きっきりでティー打撃のトスを上げてくれた。「1、2の3」と声を出してくれて、そのリズムで振り続けた。「1、2、3」でなく「の」が入るのがミソ。ボールを呼び込む「間」ができる。「間」がなかったら、低めのボール球になる変化球を見極めることができない。今の度会のようなバッティングになってしまう。僕が2年目にレギュラーとなり、盗塁王も取れたのは、1年目途中に2軍で打撃練習をしっかりできたから。あのまま代走要員として1軍に残り続けたら、どうなっていたかわからない。
もともとドラフト7位でおまけのように入団した立場だったので、「2軍に行ってこい」と言われても悔しさとかはなかった。「下手くそは練習するしかない」と思って、監督やコーチに言われたことを一生懸命にやるだけやった。度会も今後の野球人生の土台をつくる時期にしてほしい。打つだけやなく、外野の守備や走塁もまだまだ勉強しなアカンところがある。
ただし、決してあせることはないけど、「2軍慣れ」だけはしてほしくない。2軍に長くいる選手は、ぼやきが出てくる。「なんで調子がいいのに上げてくれんのや」と。自己評価だけが高くて、客観的に見ることができなくなると、成長は止まってしまう。1軍に上がれないのは、何か理由がある。ドラフト1位の選手は嫌でも注目してくれる。「ちょっと変わってきたな」と変化があれば、必ずチャンスはもらえる。
それと、度会はガッツがあり余ってる選手やから、自爆だけは気をつけてほしい。楽々アウトやのに一塁にヘッドスライディングしたことがあったが、あれは絶対にやめなアカン。ケガしたら元も子もない。イチローに憧れて、交流もあるという。かつて、イチローを師匠と慕っていた川﨑宗則も、一塁にヘッドスライディングした時に「カッコ悪い。俺の一番嫌いなこと」と叱られたことがあった。ケガなくいいプレーを見せるのがプロ。度会のプロ野球生活は始まったばかりやし、長く活躍できる選手を目指してほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。