欧州のナショナルチームの頂点を決めるサッカーの「ユーロ2024」が6月14日に開催地のドイツで開幕する。
4年に一度の熱戦は「欧州版ワールドカップ(W杯)」と呼ばれ、欧州の24カ国が集結。チーム力に差の出やすい本物のW杯より試合レベルが総じて高く、ライバル国同士の戦いが多いことから異様に白熱することで、日本のサッカーファンの間でも「これぞ世界最高峰の戦い」と、毎回注目度は高い。
しかし、今大会はこの世界最高峰の戦いを見ることができないかもしれない。そんな「超緊急事態」を迎えているのだ。
というのも、テレビ局もネット配信局でも、6月5日時点で「ユーロ2024」本大会の放送日程について、何も発表されていないからだ。数カ月前は「どこかが放送するだろう」と余裕だったサッカーファンが、5月後半あたりから徐々に…どころか、本気であせりを募らせているという。海外に詳しいサッカーライターが話す。
「96年大会から、前回のユーロ2020年(コロナの影響で開催は2021年)まで、7大会連続でWOWOWが放映権を獲得していました。当然、今大会も同局が放送するとファンは信じていたようです。ところが、いつまで待とうがWOWOWの公式サイトに本大会の告知はゼロのまま。5月末に契約者に送られる6月の番組表には、ついにユーロの文字がありませんでした。WOWOWでの放送・配信予定は絶望的な状況ですが、ユーロの予選を配信していたDAZNや、22年のW杯を無料配信したサッカー中継に強いABEMAでさえ、現在のところ動きは見られません。すでに『X』では〝観戦難民〟の悲痛な叫び声が、相当な量になっています」
思い返せば、04年、08年、12年の3大会はTBSが地上波で放送し、普段は見られないスペクタルな試合を堪能できたことで、欧州サッカーのファンが一気に増えたのだ。
それが今や、地上波もネット配信局もお手上げ状態。この理由は、ひとえに放映権料にあるようだ。前出のサッカーライターが解説する。
「欧州サッカーの放映権料は5、6年前から右肩上がりで高騰を続け、ようやく頭打ちになったと言われています。それでも、かなり高値の横ばい状態ですね。しかし、言ってしまえば今回は、世界中が集結するW杯ではなく、あくまで欧州選手権。今さら視聴者数が爆発的に増えるわけはなく、放送したところで金額に見合った収入は見込めないどころか、巨額の赤字を背負うリスクが高い。特に、日本は98年に初出場したW杯フランス大会以降、いい金づるとして吹っかけられやすいですから、水面下で価格交渉しても、あえなく撤退というパターンが多いようです」
世界200カ国以上で放送されるという今回の「ユーロ2024」だが、5月末時点で放送権を持たない国は、日本以外には、ロシア、北朝鮮、ウズベキスタン、ミャンマー、タイなど、世界大会から締め出されているロシアを除けば、アジアの国が多い。とはいえ、欧州で活躍する選手を多く抱えている日本が、この中に入っているのはさみしい限りだ。
また、このサッカー放送権をめぐる巨大マネーゲームは、日本代表が本大会出場を目指す「2026年北中米W杯」の中継にも影響を及ぼしているという。前出のサッカーライターが憤る。
「昨年11月21日に行われた、アジア2次予選のシリア戦が地上波で放送されないという異例の事態が起きました。これは、ホームのシリア側が放映権料を決める権利を持っていたことで価格のつり上げが止まらず、最終的に約1億円を要求してきたんです。日本のテレビ局からすれば、深夜帯の放送で、しかも格下のチーム相手に高視聴率は望めないと考えるのは当然でしょう。ならば、放送はあきらめるとなります。最近は、一事が万事こんな調子です。これに加え、極度の円安です。ますます放送権料をめぐる交渉は厳しいものとなっていくでしょう」
どうやらこの先、大会の規模が大きくなるほど地上波でのサッカー中継は望みが薄くなる一方のようだ。そして万が一、頼みの綱であるネット配信局さえ撤退となったら…。
代表が強くなり、ファンの目がどんどん肥える中、日本のサッカー界はまさに本末転倒としか言いようがない緊急事態を迎えている。
(風吹啓太)