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「春の選抜甲子園」開幕直前!高校野球に隠然と存在「プロ監督」を見て見ぬフリする高野連の罪

 球春到来である。選抜高校野球が間もなく開幕する。母校の応援をするため、子供の応援をするために甲子園に足を運ぶ人もいるだろう。高校球児のひたむきなプレーを見たいがために駆けつけるファンも多いことだろう。

 しかし、甲子園への道のりは非常に厳しい。泣いても笑っても、負ければ甲子園への出場はおしまいという切ない状況でのヒリヒリとする試合は、まるでドラマを見ているような気分にさせてくれる。

 アマチュア規定に縛られている高校野球は、それによって報酬を得ることは固く禁じられている。ところが、である。ある強豪野球部の元監督が言う。

「甲子園常連の強豪校には、職業として高校野球の監督をしている者も少なくありません。一応、学校の職員という名目で雇用されていますが、仕事は高校野球の監督ですから、プロですよね。コーチも使っていて、社会人野球やプロ野球と変わらない。教員が監督をしている学校との対戦というのはいかがなものかと私は思いますが、高野連はそのことを知っていながら、何の指導もしていないのが現状です」

 この元監督が指摘するように、甲子園大会を放送しているNHKで「この監督は専業の監督です」といった説明は一切ないが、「学校では社会科の先生をしています」といった説明をすることはある。高校野球の監督は教員が担うことがほとんどであり、OBがボランティアとして監督をする場合もある。そのため、世間では「プロ監督」の存在はあまり明らかにされていなかった。

 歴史を振り返ると、自らを「専業監督」と言い切ったのは、茨城県立取手二高を甲子園で優勝させた故・木内幸男さんぐらいなものではないだろうか。取手二高で監督を引き受けた木内さんは教職員になることを目指さず、用務員として雇用され、弱小だった野球部の監督になった。小遣い程度の報酬のため、他でアルバイトをして生活費を補充していたことも知られていた。スカウト活動をせずに、通学できる選手たちを鍛えて強いチームを作り上げていく手法は、全国から有望中学生をスカウトしている強豪校の手法とは明らかに違っていた。

 1984年の夏の甲子園大会の決勝では当時、常勝軍団と呼ばれていた桑田真澄・清原和博を要するPL学園と決勝で戦い、見事に優勝している。前々から木内さんの手腕に惚れていた私立常総学院の理事長から監督就任要請を受けていたことで、木内さんは優勝後の9月に常総学院の野球部監督に就任した。朴訥で自らを飾ることなく、茨城弁を駆使する明るい性格の木内さんにファンは多く、その後、黄金時代を築いたのは誰もが知っていることだろう。

「本当に野球が好きで、生徒たちのことを考えている、親やじいちゃんのような存在でした。失礼ながら、あばら家に住んでいて、野球で金銭を稼いでいるという方ではなかったことが、木内ファンが多かった理由ではないでしょうか」(当時のスポーツ担当記者)

 高校野球には職業監督の他に、スカウト業をしている者もいる。ボーイズリーグやシニアリーグ、そして中学校大会を回って有望な選手をスカウトし強豪校に推す商売であり、当のスカウトは野球強豪校の委託職員という名目の場合もある。

 今から30年ほど前から流行ったもので、主に野球後進地区と呼ばれた東北地方の高校に対し、野球が盛んだった関西地区の選手をスカウトし、結びつけていた。紹介料として金銭が発生しているのだから、言葉は悪いかもしれないが、これは人買いではなかろうか。

 中学のボーイズやシニアの指導者たちはスカウトとパイプを持ち、有名強豪校へ進んで活躍することを目指す。それによって名声が上がり、希望者が増えるという効果が生まれるからだ。

 このように、高校野球によって、直接とは言わないが金銭を得ている者も存在しているのだが、それが報道されていることは皆無に等しい。そこには、高校野球は汗と涙の青春物語である、という偶像を多くの人たちが持っていることも影響しているだろう。さらに、高校野球を管理運営する高野連に対し、忖度する風潮があることも付け加えておく。

 職業監督は学校の事務員として雇用されている場合が多いことは前述した。しかし、実際の仕事は野球部の監督であり、四六時中、野球部の運営や練習方法などを考え、実行する。これに対し、学校の教員をして、放課後に野球部の指導をするのが「教員監督」と呼ばれる存在であり、これが全国的にも圧倒的に多い。

 職業監督と比較すれば、教員監督は生徒の指導をしたり、教科を教えるのであるから、野球部を指導する時間は圧倒的に少なくなる。土日ともなれば練習試合が組まれ、監督の負担は増し、家族が犠牲になる。それでも監督をやりたいと思う熱血指導者は少なくないだろうが、職業監督に比べれば、恵まれていないと感じる。冒頭で証言した元監督が、これについて再び解説する。

「いやいや、そんな単純なものではないですよ。プロ監督でも、甲子園に行けなければ簡単にクビになります。私立は甲子園出場を決めて活躍することによって入学希望の生徒が集まるので、シビアなんです。受験料が学校の儲けになるので、受験者数は大事なんです」

 県大会の1、2回戦で負けた途端に、クビを切られた監督もいる。

「3、4年前に、秋田県内の私立の強豪校が監督を公募したことがありました。それに比べて公立の野球部の監督は公務員ですから、クビになることはありません。OB会が強い公立の強豪校はOBの監督を置くことが少なくありませんが、自営業とか比較的時間が自由になるOBを起用しているようです。プロの監督ではなく教員監督を置いている強豪校でも、事実はプロ監督と遜色ないところがあります。建前上は教員ですが、例えば学校で週に2時間しか授業を持っておらず、担任になることもない。週末に練習試合をしたら月曜日は休日するなどの便宜を図っている私立の学校もあるんです」

「監督は社会科の先生です」と紹介されても鵜呑みにはできない「隠れ専業監督」がいるということだ。

 このような実態を知れば知るほど、高校野球が純粋な青春スポーツだと思う人は少なくなるのではないだろうか。私は高校野球の取材歴が長く、高野連の事務局長とも仲良くさせてもらっていた。実質上、高野連の運営は事務局長が差配しているのだから、重要な役職である。

 佐々木朗希がU-18 の高校野球代表選手に選ばれた19年にも密着取材を続けていたが、この時の事務局長は竹中雅彦さんといい、和歌山県の高野連出身の彼には幾度となく取材に応じてもらっていた。この年の秋に事務局長を辞任することが決まっており、後任事務局長も紹介してもらう約束になっていた。

 夏の甲子園大会が終わってから神宮球場でU-18 の合同練習を取材した際に「今まで一度も一緒に写真を撮っていなかったから、記念写真を撮りましょうよ」と2人で撮ったのもいい思い出である。

 灼熱の日が続き、世田谷区内にある駒沢大学のグラウンドでU-18選手の練習を見つめる竹中さんに「あまりにも暑いから、体に気を付けてくださいよ」という話をしたのが、言葉を交わす最後になった。

 その後、韓国で行われた試合で高校日本代表選手に同行したのもテレビで見ていたが、試合が終わって帰国してから体調を崩し、肺気腫で急死してしまったのである。まだ64歳の若さだった。

 2011年12月に青森山田高校の野球部員が、寮で上級生から胸を突かれて突然死した問題でも、竹中さんにかなり突っ込んだ取材をしたものである。記事にはしなかったが、彼は本音で胸の内を明らかにしてくれていた。

 正直で真摯な対応をしてくれる竹中さんを信頼していたから、彼にはプロの高校監督のことやスカウトの存在について質問することもあった。当然のことながら、存在を把握していたが、立場上、自らの意見は言わずに言葉を濁すのみだった。苦々しい表情からすれば、なんとかしなければならないと思っていたのではないだろうか。

 今回の件で高野連に取材をすると

「専業といっても、学校職員の立場の方が監督になっていることは知っていますが、それについての統計はとっていませんし、する予定もありません」

 と、予想された答えが返ってきただけだった。専業の監督の方が選手の力を伸ばすことができる、という意見もあるが、野球強豪校が強くなるだけのことで、一般の部活動の学校との格差は広がるばかりではないだろうか。

 高校野球で比較するのは、高校サッカーの事情であろう。高校サッカーはクラブチームでやる者と、高校のクラブでやる者とに分かれている。年末から正月にかけて行われる選手権やインターハイは高校サッカー選手しか出られないため、クラブチームに行かない選手がいるのは事実である。

 レベル的にはクラブチームの方が高いとされているが、高校サッカー最高峰の高円宮杯では、クラブチームと部活動のチームがリーグ戦で対戦し、西日本と東日本の優勝チームが日本一決定戦に進出することになっている。一昨年は青森山田高校が優勝し、選手権でも優勝した記録があるから、一概にクラブチームのレベルが高いとは言えないだろう。

 高校野球も、このシステムに倣う時ではないだろうか。専属の監督やコーチがいる野球強豪校と対戦するのはフェアではない、と思う高校野球関係者は少なくないが、それを口に出す者はいない。高野連としても、ドル箱の甲子園大会を運営し続けることが使命であるから、現状に目をつむっているだけだと思われても仕方がないだろう。

 しかし、である。アマチュアスポーツの権化とされていた高野連がこの監督問題に目をつむったままでは、ファンにソッポを向かれる時代が来ないとは言えないのだ。

(深山渓)

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