いよいよ、6月14日(日本時間15日午前4時)に、欧州のナショナルチームの頂点を決める「ユーロ2024」が、ドイツで開幕する。
本サイトでは、6月6日に「なぜだ! 開幕直前『サッカー・ユーロ2024』放送権なしは『日本とロシアと北朝鮮』という笑えない事情」のタイトルで、日本ではテレビ局やネット配信局で放送日程が発表されない「超緊急事態」を詳報し、反響を呼んだ。
そこから大きな進展が見られたのが6月8日だ。96年大会から前回の20年大会(コロナの影響で開催は21年)まで、7大会連続で放送権を獲得した「WOWOW」が動いた。急転直下、ユーロ2024の全51試合の生配信とライブ配信を行うことを発表したのだ。サッカーライターが話す。
「開幕1週間前という超ギリギリまで情報が解禁できなかったのは、決してもったいぶっていたからではないでしょう。継続的なWOWOW契約者には、翌月の番組ラインナップ冊子が前月後半に必ず送付されてくるのですが、その6月版にはユーロ2024の大会情報はなかった。これは高騰する放映権料がネックで、裏で粘り強い交渉が続けられていたことが伺われます」
もはや、日本では見ることができないとあきらめていたファンが大半だっただけに、この朗報で歓喜の声がこだましたことは想像に難くない。
だが、さらなるビッグサプライズが届いたのは、それから2日後の6月10日だった。
インターネットテレビの「ABEMA」が、なんと全51試合を無料生中継すると発表したからだ。速報ダイジェストやフルマッチの見逃し配信も放送予定だという。前出のサッカーライターが驚きの表情で話す。
「ABEMAは、2022年カタールW杯で全試合を無料中継していた実績がありました。水面下でユーロ2024も交渉中との情報が流れていたのも事実です。今回は全51試合中、15試合はオリジナルの日本語実況・解説付きで中継し、36試合は現地の英語解説に任せるとのこと。正式には発表されていませんが、おそらく日本語実況の15試合は決勝トーナメントのことだと思われます。その意味では、経費削減にしっかりと着手している感じですね」
見られないどころか、いくらでも見られることになってしまった今回の「ユーロ2024」だが、8日の第1報を受けてWOWOWに即日新規加入したファンが、10日のABEMAの発表を受けて大騒ぎ。WOWOWオンデマンドの月額視聴料は税込みで2530円、ABEMAなら無料だ。モヤモヤする気持ちは当然だろう。
しかし、それだけではない。「日本史上初めて無料生中継」とドヤ顔でアピールするABEMAの後出しじゃんけんが、サッカーファンに別の不安を抱かせているというのだ。前出のサッカーライターがWOWOWの状況と絡めて説明する。
「WOWOWは月額課金が主な収入源ですが、23年4~9月期は前年同期比で新規加入件数を伸ばした一方、全体の解約者も増えたため、会員数が減っていました。テコ入れを図るために、今年4月にはプロパーの山本均氏が就任するという、9年ぶりの社長交代が行われたばかりです。その初っ端として、新規の顧客を多数獲得するためにも『ユーロ2024』の放送権は重要なカードだったと考えられます。ところが、ABEMAにしてやられてしまった。これによって、次回のユーロ2028以降はWOWOWが放送から手を引くのではないかと一部のファンは確信していますし、怒りの声が聞かれます」
とはいえ、ABEMAが次回以降にユーロを放送する保証はまったくない。チャンピオンズリーグなどから見ているファンは、「全試合実況があるWOWOWの方を見るでしょ」と意に介していない。つまり、今回の放送権バトルで「無料だ」「損した」とのけ反ったのはユーロ2024だけを見たい層なのだ。
だが、そんな彼らの一喜一憂が、今後の「欧州サッカーの祭典」の放送を閉ざしてしまう結果となったら…。熱心なサッカーファンには「残念」で済まされない、大きな問題となるはずだ。
(風吹啓太)