パリ五輪のサッカーU23日本代表で熾烈なポジション争いを展開しているのが、「最激戦区」のゴールキーパーだ。
4月にパリ五輪の出場権をかけた「AFC U23アジアカップ」では、小久保玲央ブライアンが正守護神を務めた。決勝のウズベキスタン戦の後半、アディショナルタイムでのPKストップをはじめ、数々のスーパーセーブで日本の窮地を救ったことは記憶に新しい。
これで本大会もレギュラーは当確と思われたが、5月14日に行われたU23日本代表の大岩剛監督の会見で一転する。すでにA代表のゴールマウスを守り、23歳以下でもある鈴木彩艶(すずき・ざいおん)が「ぜひ行きたい」と、出場に意欲的であることを明かしたのだ。サッカーライターが話す。
「大岩発言が報じられたあと、サッカーファンの間で鈴木派か小久保派に意見が真っ二つに分かれました。鈴木は1月に開催された『AFCアジアカップ カタール2023』の全5試合にフル出場している選手です。普通に考えれば、戦力アップで歓迎されるべきですが、計8失点でクリーンシート(0点に抑える)はなし。鈴木のミスから失点するシーンが目立ち、大会期間中にSNS上で罵詈雑言を浴びましたからね。鈴木の五輪出場に否定的な人たちは多いのです」
サポーターの立場を考えると、確かにシュートを打たれるたびに「大丈夫か?」とソワソワした苦い記憶がよみがえるようで、大ブレイクした小久保を推す声が強まっているのはわかる。
日本時間の6月12日に組まれた、U23米国代表との強化試合でもライバル意識を燃やす2人に注目だ。しかし、24/25シーズンに向けて活発になってきた欧州の移籍市場では、2人の評価は明暗を分けている。
ベルギーのシントトロイデンに所属する鈴木は、海外挑戦1年目ながらリーグ32試合に出場し、今や各国から熱視線を浴びている。
「イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドは、昨年夏にも青田買いを画策しました。ベルギーでの成長を見て、再び獲得に動き出しています。ただ、来期の監督が誰になるのか不透明な状況で(6月11日現在)、鈴木としても移籍はしづらいでしょう。ベルギーの上位クラブや、イタリアからもオファーが届いているようで、現状はステップアップできる中堅クラブを選ぶ可能性が高い」(前出・サッカーライター)
鈴木の争奪戦が繰り広げられる一方、ポルトガルのベンフィカに所属する小久保は苦しいシーズンを過ごした。前出のサッカーライターが解説する。
「トップチームでは出場できず、今季もベンフィカのBチーム(2部)が主戦場でした。開幕戦から先発したものの、徐々に出場機会を減らすと、ベンチ入りすら厳しい状況に追い込まれました。Jリーグのチームにとっては、ノドから手が出るほど欲しい逸材ですが、本人は海外クラブが最優先。とはいえ、ベンフィカ側は売却のタイミングを探っていても、なかなか好オファーが届かないのが実情です」
所属クラブでの対照的な立場を考えると、小久保はなんとしてもパリ五輪でレギュラーの座を勝ち取りたいだろう。五輪でビッグセーブを連発すれば、欧州の強豪クラブは放っておけなくなる。かたや、鈴木が先発の座を奪って活躍すれば、日本のサッカーファンからの信頼はV字回復するはずだ。
何はともあれ、ハイレベルなゴールキーパーのポジション争いは、日本代表にとってはプラスしかない。今夏の最大の見ものになりそうだ。
(風吹啓太)