県警本部の元幹部の情報漏洩事件で揺れる鹿児島県で、今度は認定子ども園で21歳の女性保育士が2歳男児の首を刺すという、世も末の事件が起きた。
ゾッとするのは殺人未遂容疑で逮捕・送検された容疑者と同一人物の顔写真が複数アップされた、容疑者本人とおぼしきSNSの内容だ。
高校生の頃から夢だった仕事がうまくいかない、理想と現実のギャップに悩む、保育士という過酷な労働現場の愚痴をこぼす…だけならSNS上のよくある話。
だが入職からわずか2カ月でクラス担任を任された4月以降、容疑者の複数のSNSは「ホラー」めいた内容へと変わっていく。
〈最近怖い夢をよく見ます〉(自己紹介文)
〈目に光がないのよ笑笑流石に6連勤2連チャンは疲れた〉(4月7日)
〈朝4時になったら突然の腹痛がやってくる〉(4月10日)
〈怖くて叫んで起きたら見えたらいけないものらしきものが目の前にいるってやめてくれよな〉(4月12日)
女性保育士にいったい何が起きたのか。そのヒントになるのが、今年1月にSNSにアップされた「ある投稿」だ。
クリスマスの時期に入院加療していたという内容で、投稿に添えられた塗り絵の写真は、精神科の「作業療養」「リハビリ」を連想させる。
都内の認定こども園園長によると、今わかっている断片的な情報を繋いでも、事件が起きた認定子ども園ではイレギュラーなことが重なっているという。
「年度途中に職員が退職、異動すると、1歳児でも5歳児でも精神的に動揺します。『あの先生、どうしたの?』と園児が分離不安になるし、保護者からはいらぬ不信感を招く。そのため、年度末までは責任を持って勤めてもらうよう、保育士に依頼するのが一般的です。ご主人の転勤や急病など、やむにやまれぬ事情で退職者や欠員が出た場合は、派遣保育士で年度末までつないで、新年度に人員を揃えます」
ところが、逮捕された女性保育士が就業したのは今年2月。これは要注意のサインだと、前出の園長は言う。
「年度途中で職員が入れ替わる保育園、もしくは年度途中で転職する保育士は『危険信号』なんです。新人イジメによって新卒保育士が年度半ばでメンタルを病んで辞めてしまうとか、保育士自身が『業界の暗黙のルール』を破って転職活動するマイペースなキャラクターであるとか。逮捕された女性保育士は21歳、専修学校を出て2年目です。新卒保育士が就業からわずか数カ月で入院、さらに年度半ばで転職し、保育士2年目で担任を請け負った上に園児を刺す…とイレギュラーなことが重なっている。この事件は『保育士の待遇が悪い』という労使上の問題と切り離す必要があります」
昨年12月に体調を崩して入院加療していた保育士が2月に就業するや、土日連休なしで6日連続出勤するというのも尋常ではない。
容疑者が勤務していた認定子ども園は現在、公式サイトが閉鎖されているが、閉鎖前の記述によると、園児250人に対し、職員数は非常勤も含めて40人が在籍、うち10人の保育士が今年3月に大量退職していた。
事件が起きた6月7日11時、この子ども園には容疑者を含む5人の保育士しか勤務していなかった。「園庭にある竹林など豊かな自然環境で子供を育む教育方針」だったというが、わずか数人の監督者のもと、園児を竹林で遊ばせるのは、子を持つ親からすると別の意味で「怖い話」ではある。
そして容疑者が通った専修学校や勤務先が、容疑者の「精神状態」「病状」をわかっていながら、保育士業務に従事させていたとしたら…。自分で何も言えない乳幼児を預かるというのに、保育園をめぐる闇と恐怖はあまりにも深い。
(那須優子)