入学、入園シーズンだというのに、全国で幼稚園教諭、保育士の一斉退職の混乱が相次いでいる。
3月14日には大阪府堺市の認定こども園で、常勤の保育士12人のうち、雇われ園長を含む10人が一斉に退職届を提出。運営法人の役員による保育士へのパワーハラスメントと、複数の職員が人手不足を訴えていたにもかかわらず、経営陣が改善しようとしなかったためだ。子供を安全に保育できる環境にないと判断した結果の、一斉退職だった。
現在通っている園児約140人のうち3分の2を超える100人以上の転園希望が保護者から出されたが、年度をまたいでも転園先が見つからない園児がいるという。
リニア新幹線工事と職業差別発言で川勝平太知事自らが静岡県政をひっかき回す静岡県は、さらにメチャクチャだ。
焼津市の私立幼稚園と掛川市の保育園でそれぞれ、過半数の職員が一挙に退職。園の継続と運営が危ぶまれる危機に陥っている。
静岡県内では2022年9月に牧之原市の認定こども園で、送迎バスに園児が5時間にわたって置き去りにされた結果、重度の熱中症で死亡する事故が起きている。
さらに2022年には裾野市の私立保育園で、保育士3人が1歳児の足をつかんで逆さ吊りにするなどの虐待が発生。2023年10月にも浜松市の認可保育園で、保育士が0歳児の園児8人の口に無理やり食べ物を突っ込む「窒息死寸前」の虐待が発覚し、業務委託先が変わった。
職員の一斉退職は、東京都内のブランド幼稚園にも飛び火した。
朝の情報番組「めざまし8」(フジテレビ系)が、入園式を前にした世田谷区内の名門幼稚園で教諭11人全員が退職を申し出た、という独自ネタを4月4日に報じたのだ。教育ジャーナリストが解説する。
「入園費が20万円以上と高額で、テレビインタビューに答えていた保護者が『入園試験のために、塾にまで行かせていた』と話していたこと、MCの谷原章介の熱心な語り口から、高級住宅街にある『芸能人やセレブ御用達』のブランド幼稚園ではないかと推察されます。金持ちにありがちなモンスター親が無理難題を吹っ掛けてくるカスハラで教諭が精神的に磨耗し、園児の信頼が厚いのに退職するのでは、と地元で噂されていた、いわくつきの法人でもあります」
一斉退職が事実であるなら、経営陣もさることながら、保護者にも問題があると釘を刺すのだ。この教育ジャーナリストが続ける。
「高い塾代を払ったのに、と保護者が憤慨するのは、勘違いも甚だしい。それは幼稚園の教諭には関係ないことです。幼稚園の教諭や保育園の保育士の月給は20万円を切ります。早朝出勤の保護者に合わせて朝6時半から出勤することもあり、夜も20時近くまで残業。時給に換算すればコーヒーチェーン店、牛丼チェーン店の時給より、はるかに安い。非常勤の保育士パートにしても、時給1200円以下です。それに対して幼稚園に子供を入れる家庭というのは、母親が専業主婦かパート勤務で、乳幼児期から塾に通わせる余裕がある。寄付金、入園金を含めて現金数十万円をキャッシュで払うだけの金銭的ゆとりがあって、子供に質の高い教育と安全を求めるならば、『幼稚園の教育と安全を担保するため、教諭の待遇改善と人員増員』を訴え、同時に月謝を値上げしても構わないと申し出てもいいのでは。世田谷区は静岡県と同様に、保育士の虐待事案が相次いでいる問題の自治体です」
静岡県、世田谷区のどちらも、旧民主党の政治家が首長を務める行政区、というのがなんとも…。
昨年12月には世田谷区内の認可外保育施設で、生後4カ月の乳児が、この月齢では禁止すべき「うつぶせ寝」をさせられ、呼吸が止まっているのが発見された。警視庁は死因の特定を進めるとともに、施設側の安全管理について業務上過失致死容疑を視野に入れて、捜査を進めている。
2023年の日本国内の新生児出生数はわずか76万人だったが、少子化によって幼稚園が潰れるのではない。教諭や保育士を「やりがい搾取」しているブラック幼稚園、ブラック保育園が人手不足で自滅しているにすぎないのだ。
(那須優子)