社会

名古屋・日赤病院で男子高校生「誤診死」未熟な研修医とヤブ医者から命を守る「3つの鉄則」

 起こるべくして起きた「誤診」だろう。日赤愛知医療センター名古屋第二病院(名古屋市昭和区)は6月17日になって、昨年5月の誤診で当時16歳の男子高校生を死なせたと発表、謝罪した。

 男子高校生は昨年5月28日、十二指腸の閉塞によって激しい嘔吐や腹痛を訴え、2回も同病院を受診したが、診察を担当した研修医が急性胃腸炎と誤診。整腸剤などを処方して帰宅させ、かかりつけ医を受診するよう指示したという。

 そのかかりつけ医が緊急対応の必要があると判断したため、翌日になって再び同病院を訪れたところ、外科医がようやく「上腸間膜動脈症候群」と診断。高校生はこの翌日に心肺停止状態に陥り、6月15日に死亡した。

 よりによって医学部を出たての研修医の誤診で、苦しみながら死んでいったとあっては、高校生自身はもちろん、遺族も悔やんでも悔やみきれないだろう。

 しかも日赤愛知医療センターという大病院で起きた誤診。一般人だけでなく、医師の間にも動揺は広がっている。

 実は全国各地の日本赤十字系の病院では、2020年からの新型コロナ禍で、とんでもないことが起きていた。都内の赤十字病院に勤務していた、50代の看護師が証言する。

「日赤系列の病院は新型コロナ患者を積極的に受け入れる一方で、手術数が激減しました。日赤だけでなく、全国の病院で手術数が減ったのですが、その結果、手術で使われる血液製剤の売り上げが低迷。日赤ならではの収益減に見舞われました。そこで、全国の赤十字病院で医師と看護師の賞与と退職金削減、大規模リストラが行われたのです。自分も早期退職に応じましたが、コロナ前に定年退職した先輩看護師と比べて、退職金が500万円も減額されていました。そのせいで、老後の人生設計が狂ってしまった。自分の30年間の苦労はなんだったのかと、しばらく立ち直れませんでした」

 この看護師はベテラン医療職が大量離職したことで、いつか重大事故が起きるだろう、と思っていたという。

 日赤の発表では、誤診した研修医はコンピューター断層撮影装置(CT)検査などを行ったが、採血検査の異常値を認識せず、急性胃腸炎と診断して帰宅させている。研修を指導する上級指導医のチェックは、行われなかったという。

 同センターも人件費削減によって若い医療職ばかりになったことで、指導医の他に、研修医に血液検査の見落としを指摘するベテラン職員はいなかった、ということなのだろうか。ちなみに名古屋市では今春、患者の電子カルテ映像を、患者名がわかる形でSNSにアップし、拡散させた研修医が処罰されている。

 この男子高校生は激しい嘔吐と腹痛を訴えていたため、救急搬送されたのは致し方ないが、医療職や救急隊員ほど、夜間の救急診療を避けたがる。救急外来には医学部を出たての研修医しかいない、とわかっているからだ。

 どうすれば未熟な研修医やヤブ医者の誤診から、自身と家族の命を守れるのか。自衛策は3つある。

 まずはいきなり119番通報せず、15歳以上の患者であれば、自治体が運用する救急医療電話相談(#7119)を活用すること。

 #7119 の相談窓口には医師が常駐しており、いきなり119番にかけて研修医しかいない救急外来に運び込まれる前に、臨床経験を積んだ医師による電話診察のワンクッションを挟むことができる。

 相談窓口の医師の助言で救急搬送となり、診察したのが研修医だとしても、#7119で相談した医師の見立てを無視することはないので、今回のような未熟な研修医による思い込みと誤診で自宅に帰されるリスクは低くなる。

 2つ目は、#7119で救急搬送の必要はない、と言われた場合にとるべき行動だ。研修医しかいない深夜や早朝の救急外来、夜間外来受診を避け、専門医やベテラン医師がいる朝9時からの外来診察を受けること。症状が重ければ、外来診察の待合室が混雑していても、診察の順番を考慮してくれる。

 そして3つ目のポイント。血液検査結果や画像診断の説明が不十分であったり、患者や家族の質問に答えられないなど、医師の対応に不審なところがあったら「症状がさらに悪化したタイミング」で、別の病院を受診しよう。どんなに有名な病院、ブランド病院であっても、その日の担当であるヤブ医者に当たったら、どうしようもない。別の小さな病院に常勤するベテラン医師に診てもらった方が的確な診断、治療を得られることがあるからだ。

 新型コロナ以降、日赤に限らずどこの病院でも、ベテランの勤務医、看護師の大量離職が相次いでおり、体調が悪くなった時に名医が診察するか、研修医が診察するかがわからない「医者ガチャ」状態が続いている。

 見栄えはよくてもハズレしか入っていないガチャポンに固執せず、別のガチャポンを試みて「当たり(経験豊富な名医)」を引き当てることでしか、自分と家族を守ることはできないのだ。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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