海外FA権を行使し、メジャー挑戦を視野に入れていた鳥谷敬内野手が阪神残留を決断しました。スーパー代理人と呼ばれるスコット・ボラス氏と契約を結び、ブルージェイズなどの大リーグ球団と交渉を続けていましたが、条件面で折り合いがつかなかったと報じられています。
夢は、手を伸ばせば届くところにありました。年齢的なことを考えると今回がラストチャンス。一方で家族のことを考えると、阪神から提示された大型複数年の好条件を捨ててまで、自分の夢を貫いていいのか。ビジネスと夢。単純に金額だけで計ることはできません。鳥谷が悩んだ末、球団に残留決断を伝えたのは年を越した1月8日でした。
攻守両面でチームの要となる鳥谷の残留は、今オフの補強で誤算続きだったタイガースにとっては久々の明るいニュースとなりました。少なくとも昨季の戦力からマイナスではなく、現状維持で戦えるようになったのです。が、私も球団に名前を連ねる立場として安心した一方、何か引っ掛かる気持ちがあるのも確かです。1人の阪神OBとしては、功労者である鳥谷を、手を叩いて送り出してあげたい気持ちでした。
現場、フロントとも喜びの声があふれていますが、今回の「騒動」は球団全体が反省材料として捉えないといけません。もし鳥谷が退団した場合、中堅の大和を遊撃に回し、西岡を外野にコンバートするプランがありました。ただ、「ポスト鳥谷」は準備不足だったことは否めません。
鳥谷には大学時代からメジャー挑戦の夢がありました。12年に海外FA権を取得した時点で権利の行使は予測された事態で、もっと危機管理が必要でした。
なぜ、次のショートを用意できなかったのか。要因の1つは、鳥谷が継続する偉大な記録にもあります。14年のシーズンが終了した時点で、連続試合出場はプロ野球歴代3位の1466試合に伸びました。3年連続でフルイニング出場も続け、遊撃手としてはプロ野球最長の432試合となりました。ショートという過酷なポジションで試合に出続けるというのは、並大抵のことではありません。
鳥谷は年齢的な面を考えても、少なくともあと2年は不動の遊撃手として君臨するでしょう。ですが、チームのことを考えると、連続試合出場にはこだわっても、フルイニング、そして守備位置にはこだわらないほうがいいと考えています。巨人の阿部も今年から打力を生かすため、捕手から一塁にコンバートされました。鳥谷も何年か先には三塁、一塁への転向を考えなければいけない時期が来るはずです。そのための準備として、若手に甲子園のショートを経験させてやるべきだと思うのです。
阪神はここ数年、若手が育たないと言われ続けてきました。ただ、私がDCとして1年やってみて感じたことは、育たないのではなく、育つ環境がないということです。経験を積ませるに値する力を身につけても十分なチャンスがなく、旬の時期が過ぎてしまうのです。若い選手は甲子園で失敗を重ねながら成長していくものなのです。振り返れば、鳥谷もルーキー時代、当時の岡田監督に信念を持って正遊撃手として起用してもらい、成長していったのです。
「鳥谷が残ったから大丈夫」というだけでは今後、タイガースは同じジレンマを抱え続けることになるでしょう。次世代の生え抜きスターが誕生するようなチーム作りを真剣に考えなければいけません。