歴代のサッカー日本代表監督で最も世間を騒がせたのは、2002年のW杯日韓大会で指揮を執ったフィリップ・トルシエ氏で間違いなかろう。一風変わった練習方法で選手から反発を食らったり、サッカー協会を痛烈に批判したり、マスコミと対立したりと、サッカー以外でも多くの話題を提供した。
時を経て選手たちが次々と、トルシエ流のエキセントリックな行動を明らかにしている。
福西崇史氏は、チームに規律を作るためにトルシエ監督が新加入の選手をよく吊るし上げた、と証言した。
城彰二氏はトルシエ監督を「傲慢」と表現し、パワハラで訴えると、冗談とも本気ともつかない発言をしている。
服部年宏氏は、トルシエ監督を今も「あいつ」と呼び、選手をプロとして扱わなかった態度を批判した。
トルシエジャパンの生命線であるフラット3を率いた森岡隆三氏は、前園真聖氏のYouTubeチャンネルで、知られざる素顔を明らかにした。愛弟子とも言える森岡氏によると、
「エキセントリックな感じは計算してやっていたと、のちに聞いた。アフリカ人に対するアプローチと日本人では、真逆をやってたって言ってましたから(注:トルシエ監督は日本代表の前に、南アフリカなどアフリカの国を指揮した)。日本人にはとにかく海外に出ていけ、もっと自分を出せ、と。それに乗せられて、僕なんかしょっちゅうケンカしてた。だけど、そういうのをあの監督は好きだったから、それに甘えて僕も言いたいこと言っていた」
ある日、その言い争いがエスカレート。森岡氏がスパイクを投げつける事件が起きた。
「練習の時に呂比須(・ワグナー)さんに後ろからガッツリ削られたんです。ちょうど足首をケガしていて、めっちゃ痛かったたんでしばらくうずくまっていたら、トルシエにバーッと言われて。『お前、早く清水に帰れ』ぐらいの感じ。そんなこと言っても、ケガしていることはチームを通して伝えてあるし、わかってるはずじゃん、って。そもそもケガに対して何か言われる筋合いはないので『わかった』って言って(スパイクを)投げつけて帰ったんです」
投げた後で、この日はメディアの取材が入る日であることに気付き、監督がわざとそのような発言をしたとわかったのだとか。次の日の1面に載り、代表に呼ばれることはないかと思った森岡氏だが、
「トルシエさんがすごいのは、練習が終わった後に来て、もう普通に会話してる。トルシエさんが意図的に煽っていたというのはありますね」
多くの批判を浴びたトルシエ監督だが、ワールドユース・ナイジェリア大会では準優勝。シドニー五輪はベスト8、W杯日韓大会ではベスト16と結果を残した。それもエキセントリックな言動のおかげなのかもしれない。
(鈴木誠)