7月16日、サッカーの横浜F・マリノスは、今シーズンから指揮を執っていたハリー・キューウェル監督の解任を発表した。
現役時代はプレミアリーグ(イングランド)のリヴァプールやオーストラリア代表で活躍。技巧派の名ウイングは面白いように相手を翻弄し〝オズの魔法使い〟の異名で知られた。
横浜の監督に就任してからは、「アタッキングフットボール」の攻撃的なスタイルをより進化させることが期待されたが、23節を終えた時点で「8勝10敗5分」の12位と大苦戦。
名門で優勝が義務付けられたチームだけに、このふがいない成績では解任は致し方なしという見方はある。事実、サポーターから解任を求める声はあった…。だが、今回ばかりはフロントの「タイミングの悪さ」が、むしろサポーターの間で物議を醸しているのだ。
というのも、キューウェル監督のラストマッチとなった7月14日の鹿島アントラーズ戦では、首位争いをしている強敵相手に4―1で圧勝してしまったからだ。
「リーグ4連敗で迎える中、先制点を奪われる苦しい展開でしたが、前半の終了間際に追いつきました。チームは落ち着きを取り戻すと、後半7分にコーナーキックをDFエドゥアルドがヘディングで流し込んで逆転。そして追加点を奪い、キューウェル監督が感情を爆発させて喜んでいたのが印象的でした。この日の横浜は攻守の切り替えの早さが顕著でした。攻撃時はサイドだけではなく、中央からも切り崩し、ペナルティエリア内には5人が入り込む迫力のあるアタックを見せています。スイス1部セルベットへの期限付き移籍から復帰したFW西村拓真が途中出場すると、豊富な運動量でチームはさらに活性化。正直、今後の巻き返しに向けてワクワクする内容でした。それだけに『えっ、今なのか…』と、サポーターが監督解任に驚くのは当然です」(サッカーライター)
今季最高といっていい勝ち方をしてクビを切られては、キューウェル監督にはやりきれない思いがあるだろう。
だが、一度決めたら実行とばかりに、フロントはわずか半年ばかりでレジェンドに見切りをつけると、後任としてジョン・ハッチンソン・ヘッドコーチが暫定的に指揮を執ることになった。
この付け焼刃的人事で、サポーターはさらに不安を募らせている。前出のサッカーライターが、その心境を代弁する。
「15年からアシスタントコーチの仕事を始めていますが、監督の経歴は18年にシアトル・サウンダーズ2(米国)、22年にエルパソ・ロコモティフFC(米国)のチームをそれぞれ1年間率いた程度。ほぼ〝無名〟と言っていい。現時点でこの暫定人事がいつまで続くのか不明ですが、誰が正式に監督を務めるかわからない以上、選手補強で後れを取ることは確実です」
つまり、今季は降格さえしなければとりあえずOKということなのか…。
昨季のガンバ大阪はスペイン人のダニヤル・ポヤトス監督が就任したが、残留争いに巻き込まれる苦汁を味わった。それでも賛否ある中で続投すると、今季はポゼッションサッカーが浸透し、町田ゼルビアと優勝争いを演じている。
早すぎるフロントの決断が、吉と出るか凶と出るか。また一からの立て直しを選択したことで、名門チームが来季も瀬戸際に立たされる可能性が高くなったと言ったら、少し言いすぎだろうか。
(風吹啓太)