ここ5シーズンで優勝2回、2位2回と安定した結果を出し、今季も優勝候補に挙げられていた横浜F・マリノスが苦しんでいる。
前節アウェーのG大阪戦に0-4で完敗して、13位に転落。しかも2008年以来となる、泥沼の4連敗。優勝争いどころか、降格圏へ5ポイントに迫っていた。今、マリノスに何が起きているのか。
昨シーズンまで2シーズン指揮を執ったケヴィン・マスカット監督が退任。今季は新たにハリー・キューウェル監督が就任した。
キューウェル監督はオーストラリア代表の名選手として知られ、現役時代はイングランドの名門リバプールでプレー。チャンピオンズリーグ優勝も経験している。選手としては申し分のない経歴だ。
ところが指導者としての経験はイングランドの4部リーグや5部リーグで、トップディビジョンでの監督はなかった。4部や5部でも、これといった結果を出していない。そこが最も懸念される部分だった。
それでもアンジェ・ポステコグルー、ケヴィン・マスカットに続く豪州監督として期待されていた。
キューウェル監督のサッカーは、前任者らより攻撃的なものだ。昨年同様の4-3-3システムだが、中盤の3人を逆三角形にして、本来のダブルボランチからワンボランチ(アンカー)にし、攻撃に枚数を増やした。
開幕してACL(アジアチャンピオンズリーグ)でチームを初めて決勝に導いたが、ACL終了後のJリーグでは3勝6敗と失速。
原因はハッキリしていた。前に人を増やしたが、得点が増えたわけではないし、逆に失点が増えた。ボランチ1枚のアンカーを採用したことで、守備に負担が出てきたのは確かだ。
このシステムの基本はコンパクトにして、アンカーの守備の負担を減らし、全員で攻めることにある。ところが負けた試合は、前線と最終ラインが間延びしてアンカーに入るボールを狙われ、失点が増えていった。
だがそれ以上に彼らを苦しめたのが、6月12日の天皇杯2回戦のFC岐阜戦から7月14日のJリーグ鹿島アントラーズ戦まで続いた10連戦。ACLの日程で消化できなかったリーグ戦2試合、さらに天皇杯2試合が含まれていた。
この暑さの中で週2試合の過密日程、しかも天皇杯の2試合はいずれも延長PK戦まで戦っている。後半に入ると運動量が落ち、間延びするのは仕方がなかったかもしれない。自分たちのサッカーをやりたいけど、体が思うように動かない。そんな感じだった。
それでも10連戦の最後となった鹿島戦では、先制されながらも4-1で逆転勝ち。しかも今季、なかなかコンディションが上がってこなかったエウベルが、今季初ゴールを決めた。スイスのセルヴェットから復帰した西村拓真が後半途中から出場して自慢の運動量を生かし、前線からボール追いかける。その動きにつられて、他の選手たちも連動してプレスをかける。マリノスの基本戦術であるハイプレスが戻ってきた。
逆転してからの試合運びにも、マリノスらしさが出た。守備を固めるのではなく攻撃の手を緩めず、3点目、4点目を狙っていた。
Jリーグは今週末の試合後、約2週間の中断に入る。連戦の疲労、ACL決勝で大敗したり、メンタル的な疲労もある。この中断期間でコンディションを整え、チームをどう立て直すのか。キューウェル監督の手腕次第で、マリノスの逆襲が始まるかどうかが決まる。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。