林芳正官房長官というと、何事もそつなくこなす能吏の印象が強く、口では岸田文雄政権を支えると言っているが、衣の下から鎧が見える場面があった。
林氏は7月20日と21日の両日、官房長官就任後、初めて地元入りし、下関市をはじめ新山口3区となる5市で国政報告会を開いた。
7月21日の下関市での会には1500人が集まり、「国家老」ともいえる柳居俊学県議会議長は「日本の国造りに力を遺憾なく発揮して」と挨拶。下関地区後援会長の岡本博之氏は「長州9人目の宰相として、国家の発展に尽力されることを期待している」と述べた。
林氏は21日夕に記者団に対し、地元からの首相待望論について「政治家冥利に尽きる。志をしっかり持ち続け、精進を続けたい」と、普段の慎重な発言ぶりとは打って変わって「ポスト岸田」への意欲を隠さなかった。
最近では菅義偉氏が、官房長官から首相になっている。林氏も当然、それを視野に入れているとみられるが、菅氏の場合、安倍晋三元首相が病で辞任したためで、安倍氏を押しのけて首相になろうとはしなかった。岸田首相は依然として9月の総裁選での続投に意欲をにじませており、林氏の発言は内心穏やかでないはずだ。
そもそも下関市は安倍元首相の地元だった。安倍氏が健在ならば、林氏は別の選挙区から出馬することになる。下関での会合には旧安倍後援会幹部らにも案内状を送ったというが、元幹部の中には「踏み絵のようだ」と反発し、欠席した人は少なくない。
しかも安倍氏の三回忌の直後に、下関で大規模な集会を開いた林氏の無神経さを批判する元安倍後援会幹部もいる。解消に追い込まれたとはいえ、旧安倍派が約100人いることを、林氏は忘れているようだ。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)