マクドナルドでの仕事はまずクルーとしてスタートし、キッチンやカウンターの業務を覚えていく。仕事の効率が上がるようになると、試験を経て、各自の職務時間帯や持ち場を指示して現場を仕切るスウィング・マネージャーになったり、主に店舗内の接客を担当するスターと呼ばれるポジションに出世するという。社員に登用されて、SV(スーパーバイザー、現在のOC)にまで上り詰めるケースもあるそうだ。
A氏が務めていたマネージャーは、バイトスタッフでありながら、店内の切り盛りをほとんど任された立場となる。結果、知らなくてもいいことの多くを知ってしまったというのだ。
「マネージャーの上にはもちろん店長がいます。ただ、私が見てきた店舗では店長がほとんど店に来ないため、何かあればマネージャーのせいという感じでした。例えば、食品は時間がたてば廃棄しますが、廃棄の数が多いと店長が本社から叱責されるんです。それを嫌ってものを捨てることにナーバスになるから‥‥」
経験を積んだマネージャーは、例えば曇りの日ならてりやきマックバーガー、雨ならフィレオフィッシュといった、天気や曜日などで変化する売れ筋商品について、事細かなデータが頭に入っており、売れると見越した商品は事前に多く作るよう指示する。それでも日によってはそううまくいかないこともあるし、思いもしない事態もあるため、どうしても数多く廃棄しなければいけない局面も出てくるが、それが許されなかったのだという。
「廃棄物が少ないと、本社からほめられて、場合によってはハワイ旅行なんかの褒美をもらえることもあった。反対に多ければ、店長がマネージャーを尋常じゃないほど怒るんです。だから、それを避けるために捨てるべきはずのバーガーをお客さんに出していたし、ビーフパティを床に落としても、“3秒ルール”と称し、すぐに拾って『火を通せば大丈夫』と焼いて提供しました。ポテトやナゲット、フィレオフィッシュの中身なんかを落としても、『そんなもん入れちまえ』と店長から言われることさえあって、拾って揚げてしまえば問題ないという感覚になっていた」
廃棄物の削減を目指す本末転倒な意識からか、“大きな外敵”の急襲に対しても、適切とは言えない対処をしていたという。
実は商品のストックを保管するために店舗の裏や隣接した場所にある倉庫、そして厨房にネズミが発生しており、袋詰めされたバンズをかじるという、おぞましい事態がよくあったというのだが‥‥。
「袋詰めのバンズは12個ぐらいで1パックでしたが、少しでもネズミの歯形が確認されたらパックごと廃棄するのがルールでした。でも実際には、かじられたバンズだけをはじいて使っていましたね」