ところで、A氏が複数の店舗で働いた経験があるというのは、何度かバイト地域を替えたこともそうだが、「ヘルプ」という名目で勤務先とは別の店舗に助っ人として行くことが頻繁にあったからだ。ヘルプとは、従業員の手が足りなくなった際に他店舗に助けを求めるシステムだという。要請してきた店舗のメンバーで新年会や忘年会などを開催していて元のスタッフが全員出払っているようなケースもあったというが、A氏は業務を黙々とこなし、さまざまな現場をのぞいてきたそうだ。結果的に10店舗近くのマクドナルドの裏側を見てきたが、「どこの環境も似たようなものだった」として、さらなる懺悔告白を続けた。
「今は販売されていませんが、昔はコーンポタージュがありました。スープマシン上部の蓋を開け、そこから粉を入れてスープを作成する仕組みだったのですが、マシーンの内部には管が張り巡らされていて、そこがゴキブリの巣窟でした。管の絡まり方が複雑だったため清掃がうまくできず、それを理由にろくな清掃もしないで、そのまま放置していた。スープの注文が入るたび、『うわ~』と思いながら提供していましたね。なぜかフィレオフィッシュを注文するお客さんはコーンポタージュを一緒に頼む人が多くて、申し訳ない気持ちになっていた」
同様に、マックシェイクを作るシェイクマシーンの管理もずさんだった。乳製品というデリケートな性質上、シェイクマシーンは毎日、クローズスタッフが分解して洗浄し、オープンスタッフが組み立てて使用することが義務付けられていたというのだが‥‥。
「本当に分解すると洗浄だけで1時間ぐらいかかるんですよ。だから、パカッと蓋を開けて、『これでいんじゃねえ』とか言って、申し訳程度に洗うクルーが少なくなかった。月1回、保健所が大腸菌の検査に来るんですが、その前日だけは入念に洗っていましたよ」
手抜きの洗浄では洗い残しも多く、「消毒液臭い」と客からクレームが入ることもあったばかりか、あとから食中毒を訴える苦情もあった、と聞くに及んでは、つい耳を疑いたくなってしまう。
そして、不衛生の本丸といえば廃棄物だった。規定の時間が過ぎた商品はそのつど、客の食べ残しも入った店内のゴミ箱なら1時間に1度、ゴミ袋を二重にして外に集められるのだが、やはりおぞましい現場になっていたという。
「だいたい倉庫の外に廃棄物は置かれました。私がいちばん長くいた店舗では倉庫内にもネズミやゴキブリがたくさんいましたが、外の光景はすさまじかった。猫ほどの大きさ、体長50センチぐらいはあるネズミが大量発生していました。ゴミ袋を食い破って“栄養源”を食べているから肥えてるんです。ネズミ捕りや駆除薬品を置いても効果はなかった。そのゴミ捨て場はビルとビルの間にあって、扉を開けて入るんですけど、最初は怖くて上からゴミを投げ入れていたほどです」