パリ五輪直前に、喫煙と飲酒行為が発覚。日本体操協会と本人の話し合いにより、五輪辞退を表明したのは女子代表の宮田笙子だった。女子体操陣のエースだった彼女の辞退は体操関係者に留まらず、パリに向かう日本選手団にも大きな衝撃を与えたが、思い起こせばリオ五輪直前にも、似たような案件はあった。謹慎と出場停止処分を受け、出場断念を余儀なくされた、バドミントン日本代表の桃田賢斗である。
桃田は2015年に世界選手権3位、同年末のスーパーシリーズファイナル日本男子で初優勝するなど、その快進撃は目を見張るものがった。
22歳になった2016年には世界の主要な大会で結果を残し、世界ランキング2位に。ところがこの年の4月、桃田を含むNTT東日本の選手が都内の闇カジノ店でバカラ賭博をしていたことが発覚。協会は桃田の無期限での競技会出場停止処分を発表する。と同時に、日本代表からは外れることになったのである。
4月8日に都内で記者会見に臨んだ桃田は憔悴しきった表情で、「6回程度、1回で10万円くらい持っていって、トータルでは50万円ぐらい負けていました。高校を卒業して社会人になって、お金を自分で使えるという軽率な気持ちで、軽く考えすぎていました。自分を止められない弱さがあったのかなと…」
飛ぶ鳥を落とす勢いだった2015年、巨人軍の野球賭博騒動を目にしたことで、
「ひとごとではないな、というのが率直な感想で、解雇報道を見た時は怖くて誰にも言えませんでした」
そう言ってうなだれたのである。
だがこの騒動にはNTT東日本のOB2人に加え、部員6人が関わっていたこともあり、
「たまたま飲みに行った帰りに勧誘された」
という言葉に疑問が残ったのは事実だ。彼らが通っていたとされる、JR錦糸町駅から少し離れた雑居ビル周辺を取材してみると、
「この辺りには韓国やフィリピンパブが多く、トラブルが多いため、警察の目は厳しい。そんな場所で24時間営業の闇カジノに勧誘することは無理」
との証言があり、警視庁担当記者は当時、筆者の取材にこう語っている。
「桃田たちが出入りしていた闇カジノは2015年3月に警視庁の摘発を受けて閉店しています。今回の騒動発覚の背景には、桃田が闇カジノに通う写真と、女性とのツーショット写真がその筋の人物に渡り、その人物が写真を使って恐喝を企てた。それが警察に察知されて警察から情報が流れ、公になってしまったというのが真相のようですね」
だが桃田騒動はこれで終わらなかった。世間のバッシングを跳ねのけ、出場停止処分が解除になった2018年、2019年と世界選手権を連覇。世界最優秀選手に選出されたのだが…。
しかし、東京五輪での金メダルが期待される中、なんと今度は遠征先のマレーシアで交通事故に遭い、2021年の東京五輪では、まさかの予選リーグ敗退となった。
そんな彼は今年4月に中国で開催された国別対抗戦トマス杯をもって、日本代表を引退。世界最高クラスの実力を兼ね備えながら、五輪に出場できなかった波乱の選手人生に、ピリオドが打たれたのである。
(山川敦司)