スポーツ

新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「割れた全日本!残ったのは川田と渕の2人だけ」

 2000年6月9日、日本武道館大会終了後、全日本プロレスが2つに割れた。

 しかし大会自体は普段通りで、不穏なムードはなかった。この日の目玉は世界タッグ王座決定トーナメント。1回戦で三沢&小川良成を撃破した大森隆男&高山善廣のノーフィアーと、ジョニー・エース&マイク・バートンに勝った川田利明&田上明の聖鬼軍が決勝でぶつかり、聖鬼軍が第42代王者に返り咲き、ハッピーエンドで終わったのだ。

 ただ、いつもの日本武道館と違ったのは、全試合終了後に社長として報道陣に総評を語るのが常になっている三沢がすでに会場をあとにしていたことだ。

 実はこの時点で三沢は社長ではなかった。シリーズ中盤戦の5月28日の後楽園ホールの昼興行終了後に、三沢の代理人弁護士の事務所で行われた臨時役員会で百田義浩(力道山の長男)から三沢社長解任の動議が提出され、可決されていたのである。三沢が全日本の社長のまま団体設立に動いて、背任行為に問われないためにという動議だった。

 これを東京スポーツが6月12日付の紙面で「三沢、社長辞任」という形でスクープして全日本の分裂が公になった。さらに選手たちの契約は3月末日で切れていたことも明らかになった。3月の時点で選手会から馬場元子オーナーに待遇改善の契約内容改正案が提出されていたが、妥協点が見つからず、選手たちは3月31日以降、未契約のまま試合に出場していたのである。

 三沢の社長解任が公になった翌日の13日に行われた定例取締役会では、社長解任によって一取締役という立場になった三沢、副社長の百田光雄(力道山の次男)、専務の大八木賢一、取締役の田上明、小橋健太(現・建太)、百田義浩が辞職届を提出。父親の急病で福岡に帰郷していた渕正信は出席せず、残ったのは元子オーナー、馬場の姪で経理担当取締役の馬場幸子、日本プロレス時代から馬場を支えた監査役の大峡正男の3人だけだった。

 こうした事態に全日本は6月14日から3日間を選手の契約更改期間としたが、14日に事務所を訪れて契約したのは「全日本プロレスという馬場さんが創った名前を捨てきれなかった」という川田1人だけ。

 翌15日、選手は誰1人として事務所に姿を現さず、渕と川田以外の選手の荷物が合宿所から運び出されたことが判明したが、全日本は広報担当の三橋祐輔が7月1日からの新シリーズにスタン・ハンセンらのレギュラー外国人、ハワイに帰国中のマウナケア・モスマンが参加することを発表して全日本存続をアピール。

 スタッフとしてはレフェリーの和田京平、リングアナの木原文人、新シリーズの発表をした広報担当の三橋、さらに大峡が営業部長として、馬場幸子が経理担当として全日本に留まることを表明した。

 馬場夫妻の側近で、ジャイアント馬場亡き後も元子オーナーを支えることを誓っていた和田は、水面下で新団体設立に動き始めた三沢に「三沢プロレスをやるのなら、今いるレスラーを全員引っ張って新しい団体をやってくれ。馬場さんも生前からそう言ってたし、俺も反対しない。でも、今後は俺の前で一切裏の話をしないでくれ。聞いたら元子さんに報告しなきゃいけないから」と伝え、三沢に「それなら、元子さんをよろしくお願いします」と言われていたという。

 この15日の夕方には、選手会長の田上が緊急選手会を招集。川田、渕、衆議院選挙活動中の馳浩以外の全選手が参加した。田上は世界タッグ王座のパートナーの川田にも電話したが「もう全日本と契約した」と知らされて、選手会には呼ばなかった。

 一夜明けた16日午前中には、23選手と練習生1名、現場スタッフ6名の30人分の退団届が内容証明付郵便で全日本事務所に到着。午後にはディファ有明に三沢、田上、小橋、秋山準、小川良成、大森、高山、ラッシャー木村、永源遙、百田光雄、菊地毅、本田多聞、井上雅央、浅子覚、泉田純、垣原賢人、志賀賢太郎、金丸義信、森嶋猛、橋誠、丸藤正道、力皇猛、池田大輔、小林健太(現KENTA)、練習生だった杉浦貴、レフェリーのマイティ井上の26名が集結して、新団体(プロレスリング・ノア=7月10日に正式に団体名発表)発足記者会見。

「全日本の持つ伝統と、私がこれからやろうとする理想のプロレスの間にギャップを感じ、私のプロレスを貫き通すには馬場さんの創った全日本プロレスらしさを壊してしまうんじゃないかと思い、退団を決意しました。ここにいるメンバーは私と同じ気持ちで1から頑張っていきますので、よろしくお願いします」という三沢の挨拶に1年間の苦悩が滲み出ていた。

 この日の夕方、東京に戻った渕は全日本との契約を更改。一時は引退も考えたという渕だが「01年1月の馬場さんの三回忌までは全日本を存続させたい」と決意。新たな元子体制全日本は川田と渕の2選手だけで始動することになった。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

写真・山内猛

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