スポーツ

新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「TV中継打ち切り!全日本が所属2人の再出発」

 2000年6月に勃発した全日本プロレスの分裂騒動。6月16日、三沢光晴は練習生(杉浦貴)、レフェリーのマイティ井上、現場スタッフを含む30人で新団体(プロレスリング・ノア)の設立を発表。

 その3日後の19日には川田利明と渕正信の2人が神奈川県青葉区の全日本プロレス道場で記者会見を行い、分裂(全日本側から言わせると大量離脱)を招いたことをファンに謝罪すると同時に全日本の存続をアピールしたが、同日に72年10月の旗揚げから二人三脚で歩んできた日本テレビが中継打ち切りを発表するなど、全日本の危機的状況は変わらなかった。

 わずかな希望は、川田が会見で「僕の使命は馬場さんの築いた全日本プロレスを守ることだと思っています。全日本の素晴らしさを改めて、ひとりでも多くの方に知ってもらいたいと思います。中でも新日本プロレスさんとの交流を前向きに考えていくつもりです」と発言したこと。他団体の名前を出す場合、水面下で何らかの交渉が進められていると考えるのが妥当だ。実際、新日本の永島勝司取締役宣伝企画部長が全日本にアプローチしていた。

 現場監督の長州力の右腕として様々な仕掛けをしていた永島が全日本との対抗戦を考え始めたのは、この年の2月頃に遡る。

 1月31日のジャイアント馬場一周忌が過ぎた頃から、社長の三沢とオーナーの馬場元子夫人の不仲がマスコミ関係者の間で囁かれるようになり、永島の耳にも「全日本が分裂するかも」という噂が入ったという。

 情報収集した永島は「川田と渕の他、3人ぐらいが全日本に残るらしい」という情報をキャッチしたが、蓋を開けてみたら残ったのは川田と渕だけ。そうなると23選手を抱える三沢派との対抗戦を考えるのが普通だが、永島は「2人だからこそ面白い!」と思ったという。そこが仕掛け人ならではの嗅覚だ。もちろん長州にも異論はない。長州も永島も全日本プロレスという看板、ジャイアント馬場と王道というブランド、そして「2人しかいない団体」というインパクトを選んだのである。

 新日本入社前は東京スポーツ新聞社の記者だった永島は、旧知の渕に連絡して2人で会い、それを踏まえての6月19日の記者会見での川田発言だったのだ。

 だが、新日本と全日本の扉を開くのは簡単ではなかった。その後、永島は新日本の藤波辰爾社長を伴って馬場元子オーナーと会談を持ったが、この席で永島が全日本との対抗戦が実現した場合に想定していたマッチメークのメモを見せたところ、元子オーナーは「そんな具体的な話をするほど親しい間柄ではない」と態度を硬化。一度、交渉は暗礁に乗り上げてしまった。

 そうした中、全日本の再出発となる7月1日のディファ有明における「サマー・アクション・シリーズ」の開幕戦が迫ってきた。この時点では、新日本の協力は見込めなかった。

 所属選手は川田と渕のみ。そこに恩返し参戦を申し出たのは、ジャイアント馬場が打ち出した開国路線の中、96年11月28日の札幌で馬場と6人タッグで激突した藤原喜明、97年7月から「お釈迦様(ジャイアント馬場)の説法をお聞きしたい」と全日本に上がったみちのくプロレスの新崎人生、インディー出身から全日本で学び、98年5月1日の全日本の東京ドーム初進出に出場を許された奥村茂雄(現OKUMURA)。

 さらにハワイに戻っていたマウナケア・モスマン(太陽ケア)、全日本のレギュラー外国人のスティーブ・ウイリアムス、マイク・バートン、ジョニー・スミス、ジャイアント・キマラ、ウルフ・ホークフィールド、スコーピオ、ジョージ・ハインズが継続参戦を表明。レフェリーのウォーリー山口の人脈で九州のローカル団体「世界のプロレス」から相島勇人も馳せ参じた。

 そしてスタン・ハンセンが「ジャイアント馬場は今も未来も全日本プロレスに居続けている。私はこれからも全日本プロレスのみをサポートしていく」というメッセージとともに、最終戦の7.23日本武道館への出場を表明した。

 7月1日のディファ有明で組まれたのは14選手による5試合。メインイベントは川田と渕の一騎打ち‥‥この時点の全日本では、これが提供できる最高のカードなのだ。いや所属選手はこの2人だけだから「このカードしかなかった」という表現が正しい。

 超満員札止め1500人の観客の前で川田と渕は、新たな全日本の方向性を示すべく、真正面からぶつかり合った。渕が川田の頰骨の急所に肘をグリグリと押し当てれば、川田はチョップの連打で渕の胸をミミズ腫れにした。

 22分48秒の激闘の末、パワーボムで勝利した川田は「カウント2.9で返すプロレスから脱皮して、痛みが伝わる試合、心に残る試合をしていく」と宣言。

 明けた7月2日の後楽園ホールにおける第2戦。あの男が10年ぶりに全日本プロレスに帰郷した!

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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