パリ五輪サッカー男子日本代表の快進撃で、選手たちに欧州クラブからの熱視線が注がれる中、チームを率いる大岩剛監督の評価がうなぎ上りだ。
クラブ間の調整の難しさから、オーバーエイジ枠を活用せずに臨んだ本大会で、無傷の3連勝でグループステージを突破したことも高評価の一因だが、特に采配が光ったのは3戦目のイスラエル戦だと評判だ。
試合は、スコアレスで迎えた後半34分にMF藤田譲瑠チマとFW細谷真大を投入。そこで試合の流れを引き戻すと、アディショナルタイムに藤田が右サイドのFW佐藤恵允に鋭いパスを送る。そのまま佐藤はワンタッチでクロスを入れ、細谷が右足で合わせて劇的な決勝弾を生んだ。サッカーライターが大岩監督の「決断力」についてこう話す。
「本大会のメンバー選びの時も、A代表のゴールマウスを守る鈴木彩艶をメンバー入りさせるか、頭を悩ませていました。6月の米国遠征に招集すると、小久保玲央ブライアンの方が調子がよく、シュートストップ能力が高いと判断し、鈴木をリザーブにさえ選ばない非情な決断を下したんです」
そして、小久保は「国防ブライアン」と呼ばれるほど大活躍を見せている。決断の潔さからして、決して結果論とは言えないはずだ。
そんな采配ズバリの指揮官に対して、サッカー関係者の間では「ポスト森保」に急浮上している。
実はパリ五輪に限らず、大岩監督の実績は目を見張るものがあった。
17年のシーズン途中に、ピンチヒッターで鹿島アントラーズの監督に就任。チームを立て直して2位の好成績を収めると、18年と19年は3位。J1制覇こそあと一歩手が届かなかったが、アジア最強クラブを決めるACL優勝を果たしている。
「〝神様〟ジーコの下で学んだ勝者のメンタリティーと、日本サッカー協会でS級ライセンスの受講生を指導するインストラクターを任されるほど、理論派で知られています。鹿島を退任後はガンバ大阪やジュビロ磐田から声が掛かりましたが、アンダー世代で世界に挑戦する道を選択したという勝負師でもあります」(前出・サッカーライター)
とはいえ、五輪のグループリーグは見事だったが、26年北中米ワールドカップ(W杯)はまだ先だけに「ポスト森保」論争が時期尚早という声があるのは事実だ。
だが、9月にはW杯アジア最終予選の幕が開く。カタールW杯の出場権をかけた前回の最終予選では、3戦して2敗とスタートダッシュに失敗している。7大会連続7度目の本大会出場が危ぶまれるほど崖っぷちに追い込まれ、「森保解任」がX(当時はツイッター)で、トレンド入りするほど騒ぎになったことを覚えている人は少なくないだろう。それだけに、
「日本サッカー協会は常に最悪の事態を想定しています。その上でコミュニケーションが取りやすい日本人監督で、なおかつ実績がある人物が絶対条件になってくる。もちろん26年の北中米W杯に出場した後の『ポスト森保』の有力候補ではありますが、最終予選での緊急登板となれば、アジアの戦いを熟知した大岩監督以上の適任者はいないでしょう」(前出・サッカーライター)
とことん勝利にこだわるだけではなく、質実〝剛〟健の性格で選手からの人望も厚い。パリ五輪でさらに良い結果を導き出せば、近い将来、A代表で「大岩ジャパン」が誕生する可能性は高い。カウントダウンはすでに始まっているのだ。
(風吹啓太)