「もう、この男しかいない」「全国民必読の一冊、緊急出版!」との謳い文句で、一冊の本が8月7日に発売された。著者は自民党元幹事長の石破茂衆院議員だ。もちろん、9月の党総裁選を意識しての出版である。
そのタイトルは「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)と仰々しい。「戦後保守の可能性を一身に宿した政治家の全人生と政治ビジョンとは何か?」として「保守の本質は寛容です。相手の主張に対して寛容性をもって聞く、受け入れる度量を持つ、という態度こそ保守の本質です──」と強調する。これは自民党保守層の中に「アンチ石破」が多いことを意識したといえる。
もっとも、表紙を見た自民党の閣僚経験者は「編者の名前を見て驚いた」と語る。それは毎日新聞の倉重篤郎客員編集委員。倉重氏は日本記者クラブでの記者会見で、安倍晋三元首相と激しくやりあった記者だからだ。
その質問は時に強引で、2017年10月8日の日本記者クラブでの党首討論会では、安倍氏について「最高権力者である総理大臣のお友達を優遇するとして(モリ・カケには)共通点があると思う」「優遇されたことについて安倍さんはこれまであんまり何もおっしゃっていない」と断じた。これに対し、安倍氏は「籠池(泰典・森友学園理事長)氏は私の友人ではありません」と真っ向から否定している。
安倍氏と親しかった産経新聞の阿比留瑠比論説委員兼政治部編集委員は翌日の紙面で「事実の裏付けもなく相手に問題があると仮定の上に仮定を重ねて決め付け、反省を強いるのが記者の仕事だと思われたらかなわない」とまで書いて、倉重氏の質問を批判した。
「石破氏が世論調査では一見、人気は高くても、自民党内の人気はさっぱり…という原因が、表紙だけ見ればわかる」
と先の閣僚経験者は、アキレた表情で言うのだった。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)