ほーれ、だから言わんこっちゃない。水質問題が取り沙汰されていたパリ五輪のトライアスロン競技で、とうとう「事件」が起きてしまった。レースを終えた選手が次々と嘔吐する「五輪史上最悪の放送事故」が世界中に拡散したのだ。
大惨事が起きたのは、7月31日に強行されたトライアスロン男子競技でのこと。セーヌ川の水質は7月26日の開会式当日から翌朝にかけての雨天で、著しく悪化。競技は2回にわたり延期となったが、水質が改善したとして7月31日、男子競技と女子競技が強行された。
ところがレースを終えてセーヌ川から上がってきたトライアスロン男子の選手たちが、次々と嘔吐。10回も吐いたカナダ代表の選手もいたと「ニューヨーク・ポスト」紙など全米メディアが8月4日、相次いで報じたのだ。
さらに5日には、男子個人競技に出場したスイス代表選手、女子個人競技に出場したベルギー代表選手が「大腸菌の感染症」とみられる体調不良で入院。スイスは同日に行われた男女混合リレーの選手が交代、ベルギーは同競技を棄権したと、地元メディアが報じている。
日本国内のトライアスロン選手に聞いてみると、
「セーヌ川でトライアスロンなんて論外。どうしても屋外で強行するなら、サーフィン同様、タヒチでやればよかった」
と憤慨する。というのも、
「例えばセーヌ川と比較された東京湾はもちろんのこと、相模湾などもトライアスロンができる水質ではないんです。湘南の海水浴場で開かれたトライアスロン大会後、胸膜炎や肺炎、胃腸炎や結膜炎を起こす選手が続出しました。自分も目は結膜炎で真っ赤、肺に水が溜まり、医師には『今度また汚い海に入り、肺炎や心膜炎になったら、命は保証できない』と言われ、家族には『スポーツは健康増進のためにやるものではないのか』とアキレられました」
フランスを旅した人は思い出してほしい。パリ市内のそこら中に犬のフンが落ちていたことを。観光用の馬車を引く馬が落としていく馬糞を。ゴミがそこら中に捨てられている光景を。
ついでに言うと、パリ市役所は推定600万匹とされるネズミとの共存宣言を出している。地下鉄の駅ホームでも見かけるネズミの駆逐は困難という、事実上の敗北宣言だ。
華麗な開会式の裏側では、あの道端のフンや下水道を流れる汚水が雨水とともに、セーヌ川に流れ込んでいた。そして5日後、セーヌ川を泳ぐトライアスロン選手の口の中へ…。
哀れにも入院したベルギーの選手は競技後、
「考えたくないものを見たり、臭いを嗅いだりした」
と地元ベルギーの記者に訴えていた。
そもそもフランスの下水は、歴史的にお粗末。馬術競技が行われたべルサイユ宮殿の庭園にしてもマリー・アントワネットがいた時代、宮殿で暮らしたり舞踏会に訪れる人達の糞尿が捨てられていた場だ。なぜ立派な競泳用のアリーナがあるのに、トライアスロン選手だけが糞尿だらけの川を泳がなければならなかったのだろうか。
ちなみに東京五輪のトライアスロン会場だったお台場海浜公園も大腸菌が多く、海水浴場の安全基準に満たないため、今年も遊泳禁止。顔をつけることも禁じられている。
(那須優子)