馬術のヴェルサイユ宮殿、フェンシングのグラン・パレ、エッフェル塔の真下に作られたビーチバレーコートなど、パリならではの見映えのする華麗な会場が羨望の眼差しを浴びている「パリ五輪」。
しかし一部では、既存の施設を重視したエコ大会のため、大きな会場の仮設シートが揺れすぎて「船酔い」のような症状になるなど、残念な一面が見られている。
そんな中、これだけはヤバイと言われているのが、セーヌ川を泳がせるトライアスロン競技だ。
フランスが約2300億円を投じて水質浄化対策をしたというセーヌ川では、大会直前に市長や関係者がわざわざ泳ぐというパフォーマンスが行われた。それでもなお「ここで泳がせるのは危険だ」という声は止んでいない。
事実、開会式が行われた日本時間の7月27日と翌28日に降った大雨によって、生活排水が流れ込み川の水質は一気に悪化。基準値を上回る大腸菌が検出されたことで、29日と30日に行われる予定だった選手の練習は中止となり、セーヌ川での開催を危惧する声がさらに高まっていた。
ところが31日、川の水質が基準をクリアしたとして予定通りにトライアスロンの競技を開催することが発表されたのだが…。パリに滞在経験のあるスポーツライターが話す。
「水質改善はあくまで数字上のデータで、また少し雨が降れば大腸菌が繁殖するぐらいギリギリです。強行開催と言っていいこの日の発表には、やはり『正気の沙汰ではない』と批判の声が上がっています。パリを訪れたことのある方ならわかるはずですが、セーヌ川は観光名所で雰囲気があるとはいえ、いかにも都会の河川です。水質は東京でいえば隅田川や荒川を少しマシにした程度という印象ですよね。そんな場所で泳がされる選手の健康を考えると、いくら五輪とはいえ背筋が寒くなります」
2021年の東京五輪では、同じくトライアスロンでお台場の海が使われて賛否を巻き起こった。当時、泳いだ日本人選手が「水中に入ると全然前が見えない汚れだった」と振り返っている。
幸いなことに東京五輪ではトライアスロンの選手に体調悪化を訴えた選手はいなかったが、パリではどうなのだろうか…。
「今年のパリは昨年より少し涼しいらしいのですが、それでも日中は34度ぐらいまで気温が上昇しています。セーヌ川の菌が繁殖するにはもってこいかもしれません。また、31日の開催発表時には数値が正式に発表されていないことから、『水質改善した』ではなく『水質改善したことにする』ではないかと揶揄する声がかなり聞かれますね。それにしても、トライアスロンという競技が大腸菌との戦いでもあると考えると、本当に何事もないことを祈りたい」(前出・スポーツライター)
パリ市政には、五輪を機に市民がセーヌ川で泳げるように戻したいという野望があるようだが、はたして濁ったセーヌ川で泳ぐ選手たちを見て「私も泳ぎたい」と感じる市民がどれだけ出るのだろうか。疑問しか湧いてこないのだが…。
(里巴林檎)