パリ五輪開幕まで、あと数日。7月17日には水質汚染が指摘されているセーヌ川を、パリのイダルゴ市長と大会組織委員会のエスタンゲ会長ら大会関係者が泳いでみせるなど、水質改善をアピールした。7月14日にもアメリー・ウデア=カステラ・スポーツ大臣らがセーヌ川を泳いでおり、セーヌ川は開幕まで日替わりで誰かしらが飛び込む「阪神がアレした時の道頓堀川」状態になっている。
ところが大臣や市長らのパフォーマンスも虚しく、6月から7月にかけてパリ市が行った水質検査の結果、競技が開かれるアレクサンドル3世橋地点では、検査した30日間のうち22日で、基準値を上回る「糞便性大腸菌」が検出されたという。
東京五輪でも大きな問題になった「水質基準」だが、川や海の水に油膜や有毒物質、工業排水、重金属などが含まれていないのはもちろんのこと「下水が混ざっていないこと」が条件となる。これは川や海の水に含まれる病原性大腸菌や赤痢菌などが原因で、選手に感染症や健康被害が出ないための衛生上の基準。調査対象となる川や海から採取した水100mlあたり何個の糞便性大腸菌のコロニー(菌の集まり)が含まれているかを基準にしている。
上水道の水質基準は当然のことながら「大腸菌ゼロ」。日本の公衆浴場の基準値は100個以下/100ml(1個以下/1ml)、国内の遊泳プールは200個以下となっている。
国際トライアスロン大会や、海水浴シーズンとなる国内の海水浴場の基準値は1000個以下。水温が30度を超えると大腸菌が繁殖しやすくなるため、屋外の水泳競技では水温31度もしくは32度以下という基準も設けられている。
ちなみに冒頭で紹介した大阪・道頓堀川の水質は、大腸菌群1000個超。遊泳には適さない。
その道頓堀川より汚いのが東京五輪とパリ五輪の競技会場というのだから驚きだ。では、どちらが汚いのか。
港区は毎年、お台場周辺の水質調査をしている。2023年のお台場周辺の3カ所の水質調査によると、7月25日はいずれも2個以下から28個だった。ところが、前日に雨が降った9月9日には1カ所で2400個、2カ所で1000個を超えた。どうしてもお台場海浜公園で海水浴がしたいなら、晴天続きで海水温が上がっていない午前中に行けばいい、ということになる。
対するセーヌ川アレクサンドル3世橋付近の水質調査を見ると、やはり前日に雨が降った6月30日の水質調査結果は2000個。橋より上流の計測地点では、6月5日に8000個もの大腸菌群が検出された。
残念ながらお台場とセーヌ川は、どちらも基準値の2倍を超えるほど汚い。だが五輪開催から3年が経過し、晴れの日は大腸菌群が50個以下のお台場に対し、五輪が直近に迫っていながら連日、基準値を超えているセーヌ川のヤバさに軍配が上がる。
セーヌ川でトライアスロン水泳が行われるかどうかは、晴天が続くかどうかのお天道さま次第。もし前日に雨が降り、基準値を上回る大腸菌群が検出された場合は、ドクターストップでトライアスロン水泳は中止になるという。
この日のために3年間、頑張ってきたトライアスロンの選手には、あまりに非情だ。
(那須優子)