ただの失踪なのか、あるいはエイリアンに連れ去られたのか。アメリカの有名ミュージシャンが行方不明になった事件がある。「ジム・サリバン事件」と呼ばれるものだ。
1961年に起こった「ヒル夫妻誘拐事件」は、エイリアンによって人間が連れ去られた「エイリアン・アブダクション」として連日のようにメディアで取り上げられたが、そんな影響をモロに受けたのが、当時、全米を席捲していたヒッピー・ムーブメントだった。
ヒッピー文化に傾倒するミュージシャン、例えばデヴィッド・ボウイやCSN&Yなどが、宇宙人や未知の生命体との遭遇をテーマにした楽曲を発表。1969年発売のデビューアルバムのタイトルがズバリ「U.F.O.」だったのが、アイルランド系アメリカ人のシンガーソングライター、ジム・サリバンだった。音楽評論家が解説する。
「1939年生まれのサリバンは第二次世界大戦中、一家でカリフォルニア州サンディエゴに移住。その後にギターを弾き始めたようですが、当時はミュージシャン志望ではなく、大学在学中にバーバラ夫人と結婚し、友人とバーの経営を始めたそうです。しかし経営が軌道には乗らず、ほどなくして閉店を余儀なくされてしまいました」
だが、芸は身を助ける、とはよく言ったものだ。ギターの腕前に目をつけた音楽業界関係者に声をかけられたサリバンは、1960年代半ばから音楽活動をスタートさせ、1968年にロサンゼルスに移住。先のデビュー作に続いて、1972年にはセカンドアルバム「ジム・サリバン」をリリースした。
この頃から酒に溺れるようになり、やがて夫婦の間に溝が生まれることに。そんな中、愛車フォルクスワーゲン・ビートルに荷物を積んでナッシュビルに向かったのは、1975年3月4日だった。
ロスの自宅を出た後、ニューメキシコ州サンタローザにあるモーテルにチェックイン。なんと、これを最後に、その足取りが忽然と消えてしまったのである。
「当時の報道によれば、鍵は部屋に残されたままで、ベッドを使った形跡は見当たらず。翌日、近くの牧場で発見された彼の車の中には、衣類やレコードのほか、片時も手放さなかったとされる愛用ギターが残されていた。それはまさに、人間だけが消えた、といった光景だったのだと…」(前出・音楽評論家)
地元警察が捜索するも、消息は全くわからずじまい。行方不明事件は迷宮入りした。サリバンが歌った「U.F.O.」には「アリゾナのゴーストタウン」「高速道路での運転」「宇宙人」といったキーワードのほか、「彼(キリスト)はUFOに乗って来たのか」という歌詞が含まれている。ファンの間では、サリバンはUFOに連れ去られたに違いない、という声が続出した。
(ジョン・ドゥ)