河野太郎デジタル相は8月15日の記者会見で、岸田文雄総理が出馬を断念した9月の自民党総裁選への対応について、次のように言った。
「安倍(晋三)政権から外務、防衛、行政改革、ワクチン担当、デジタル、非常に多くの閣僚を経験させていただき、日本が抱えている多くの課題を担当してきました。いつかこの経験を生かせる日が来れば、と思っている」
すなわち、立候補に強い意欲を示したのである。
前回2021年の総裁選で、河野氏は党員・党友による地方票ではトップに立ちながら、決選投票で岸田総理に逆転負けを喫しただけに、「三度目の正直」の思いは強い。だが、前回推してくれた菅義偉前総理らの支援を得られていない「壁」が、河野氏には立ちはだかる。
河野氏は岸田総理が不出馬表明をする前から、立候補には前向きだった。6月下旬には、自らが所属する麻生派の会長である麻生太郎副総裁と会談。その際、立候補の意向を伝えたとされるが、河野氏本人は「面白い小説だ」と、いつものようにけむに巻いた。「脱原発」のこだわりを捨てて、
「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含め、様々な技術を活用する必要がある」
と軌道修正するなど、立候補のための環境整備を整えていた。
それでも、麻生派内では甘利明元幹事長が小林鷹之前経済安全保障担当相を推すなど、派を挙げて河野氏を支持する態勢にはなっていない。
さらに菅前総理は、派閥解消を唱えたにもかかわらず河野氏が同調せず、麻生派に残り続けていることに不快感を示してきた。菅氏に近い中堅議員からは、
「前回の総裁選では一生懸命応援したのに、その後、河野さんからはなんらフォローがない。もう二度と応援したくない」
という声が漏れる。
菅氏は旧二階派や旧安倍派の一部にも影響力を持つだけに、河野氏にとって「菅の壁」は思いのほか高いようだ。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)