岸田文雄総理が「不出馬」を表明する前から、9月の自民党総裁選への意欲を隠さなかった茂木敏充幹事長だが、「壁」として立ちはだかっていたのが、岸田総理(総裁)その人だった。
総裁に代わって党務を仕切る幹事長という立場にもかかわらず、総裁選に出馬すれば、「本能寺の変」で主君である織田信長を討った明智光秀のように「裏切り者」のレッテルを貼られるのではと、茂木氏は懸念を持ち続けてきた。
だが岸田総理が身を引く決断をしたことで、茂木氏は「裏切り者」と呼ばれるおそれはなくなった。8月14日夜には、支援を期待している麻生太郎副総裁とステーキ店で会食するなど、支持固めに余念がない。選挙の責任者でもある幹事長の権限は強く、茂木氏とすればその力を最大限に発揮したい考えだ。
しかも茂木氏は、外相や経済再生担当相を経験するなど、実績は十分。トランプ前米大統領からは「タフ・ネゴシエーター(手ごわい交渉相手)」とのお墨付きをもらった。
ただ、茂木氏には「次なる壁」が立ちはだかる。それは以前、本サイトで指摘しているように「1%の男」と呼ばれるほど、その支持率が低いことだ。
時事通信による7月の世論調査では、次の自民党総裁にふさわしい議員として上位に並んだのは石破茂元幹事長(22.1%)、小泉進次郎元環境相(10.9%)、菅義偉前総理(5.2%)で、茂木氏は野田聖子元総務相と並んで、わずか1.1%だった。
茂木氏は7月のインターネット番組に出演した際、世論調査の設問の名前の並びが五十音になっているため、「常に最後なので、圧倒的に不利な立場にある」と不満をもらした。
それでも一度定着した「1%の男」のレッテルを払拭するのは、容易ではない。
「切れ者だが人望がなく、総裁はとても無理」(閣僚経験者)
との見方が党内で多い中、どう乗り越えていくか。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)