世に流行中なのはウイルスや自然災害ばかりではない。セクハラ、パワハラ、カスハラ…各種ハラスメントにまつわるトラブルも、猛威をふるっている。そしてそうしたハラスメントの中には、ニオイにまつわるものもある。スメハラ、すなわちスメルハラスメントだ。
日本人はニオイに敏感で、香水や柔軟剤、整髪料のニオイなどを「実は以前からかなり気になっていた」という人は少なくない。これまでは我慢していた人たちが、スメハラが取り上げられるようになったのを機に、声を大にして主張し始めたわけだ。そもそもなぜ、日本人はこれほどニオイに反応するのか。
ひとつには日本の気候が高温多湿で、ニオイ物質を作り出す菌が繁殖しやすいことが挙げられる。ニオイ分子が空気中にとどまりやすい、ニオイを感じやすい、という側面があるのだ。
そのぶん、頻繁に入浴するなどして清潔を心がけるわけだが、それがかえってニオイに神経質になっているともいえる。あるいは昔に比べて、環境汚染や喫煙者の減少などで空気がきれいになったため、よりニオイを強く感じるようになっている面もあろう。
つい先日、こんな「事件」が起きた。フリーアナウンサーの川口ゆりが自身のXに、ニオイにまつわる「要望」を投稿した。
〈夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる。常に清潔な状態でいたいので1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれくらいであってほしい…〉
スメハラを訴えたつもりだったのかもしれないが、上から目線で男性を揶揄しているとして、大炎上してしまったのだ。
これに慌てた所属事務所が、契約解除を発表。すると今度は「こんなことで契約解除はやりすぎだ」との声が上がり、事務所は改めて理由を説明した。
〈言葉で誰かを傷つけることがないように、ということを大切にしているため、業務委託契約を続けることは困難という苦渋の決断に至りました〉
「世間の声」の影響の大きさに、振り回された格好だ。
確かに特定のニオイに敏感すぎて、体調不良になる人はいる。一方で、どんなに努力しても、一部の人に不快な思いをさせるニオイを消せない人がいるのも事実。
常にマスクをしていたコロナの嵐が過ぎ去り、ノーマスクが主流になったことも、ニオイが気になる人を増やしたといわれる。この世のすべてのニオイを消すことはできない。やっかいな問題だ。