優勝するために補強するのは当たり前のことだ。
史上初の「J1初昇格初優勝」を目指す首位・町田ゼルビアが今夏、大型補強に打って出た。史上初の偉業達成に向けて、クラブの本気度がうかがえるのだ。
まず7月に、欧州に移籍したパリ五輪代表・平河悠の穴埋めに、日本代表の相馬勇紀を名古屋から獲得。さらに8月に入って、こちらも日本代表の中山雄太を移籍させている。
このほかにも湘南ベルマーレから元日本代表の杉岡大暉、清水エスパルスからは白崎凌兵をレンタルでか獲得している。
相馬は平河の穴埋めだと説明したが、正直言って、平河よりも経験、レベル、実績と全てにおいて一枚上。中山は左サイドバック、センターバック、ボランチとどこでもこなせる。杉岡は左サイドのスペシャリスト。左足の性格なキックが売りで、セットプレーも魅力だ。白崎は中盤でゲームメイクができるし、展開力もある。チーム力は確実にアップした。まさか昨季まで欧州でプレーしていた2人の現役日本代表を獲得するとは思わなかった。
さらに注目してほしいのは、その資金力だ。相馬獲得のために移籍金約3億5000万円を用意したといわれ、本人の年俸も2倍以上となる1億円前後だといわれている。中山の年俸にいたっては3億円前後という報道があり、今夏の補強に7億円以上も使ったことになる。
もちろん、クラブの資金力にモノをいわせた補強ではあるが、現役バリバリで実績のある即戦力選手を的確に獲得したといえよう。
資金力があるチームの中には、全盛期を過ぎたスター選手を獲得して、客寄せパンダにはなるがチームのレベルアップには繋がらない…という例がたくさんある。現在でもその資金力が成績に現れていないクラブがあるのも事実だ。
黒田剛監督の起用法にも注目したい。昨季、町田の監督に就任して19人の新加入選手を発表し、開幕から前年とは全く違うメンバーでスタートして、J2で優勝を飾った。今季の開幕戦でも、6人の新加入選手が先発出場している。補強したら使う。それが黒田監督の選手起用法だ。
現に今回の補強でも、リーグ再開初戦のC大阪戦(8月7日)では相馬、杉岡を先発出場させている。8月17日のジュビロ磐田戦でも中山、白崎、杉岡を先発起用。特に中山は、8月14日にチーム合流したばかり。しかも開始4分でヘディングシュートを決めてしまった。それだけ黒田監督は選手を信頼している証拠であるし、町田のサッカーに合う選手を補強しているのだろう。
町田を追いかけるサンフレッチェ広島、鹿島アントラーズ、G大阪、ヴィッセル神戸もそれなりに補強しているが、町田を引きずり降ろして逆転優勝を狙えるほどの、インパクトのある補強ではない。
現段階で優勝に最も近いのは町田だろう。ただ、勝ち切れない試合が続いたり、ケガ人が続出したり、何が起こるかわからないのがサッカー。それでも潤沢な資金を使って的確な補強をしたチームが優勝する。それがプロの世界ではないだろうか。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。