政治

森喜朗「オリンピック大いに語る」(2)余命宣告から奇跡の復活

 森氏はオリンピック・パラリンピック、ラグビーワールドカップの2大メガスポーツイベントの陣頭指揮を執る一方で、2015年3月には肺ガンを患い手術を受けていた。このことを知る人は少ない。家族には「余命1年」を宣告されるほどまで悪化していたという。森氏が当時の様子を明かす。

「肺ガンがわかってしばらくした時、『もって年内かもしれない』と覚悟したものです。すでに抗ガン剤による治療は始まっていましたが、体重は10キロ以上落ちて、髪の毛も抜け落ちてきた。そこで、丸刈りにしてマスコミの皆さんの前で会見したこともありました。私は冗談めかして『(公式エンブレム撤回騒動などで)みんなが責任を取れとか何とか言うから。坊主にした方が楽だから坊主にした』と言ったら、スポーツに詳しくない社会部記者の方々は本気にしていたようでしたが(笑)。実際はかなり病状が悪化していたのです。

 その後、私は『オプジーボ』という特効薬と出会ったことで一命をとりとめ、安倍総理がスーパーマリオになって登場し、話題となった2016年のリオオリンピックの閉幕式にも参加することができた。おそらく、マスコミの皆さんも私がそれほど重篤な病気だったとは気づかなかったでしょう。

 それでも術後の体は激務に耐え続けてガタガタになっていましたが立場上、弱音を吐くわけにはいきませんでした。その矢先に女性蔑視発言で辞任を余儀なくされた。私は、同席していた組織委員会のメンバー誰一人も、私の発言が公的な会合の席ではなく、あくまで会合後の懇談の場でのことだったと擁護してくれなかったことが残念でならなかった。何なら、私に対して釈明の機会をセッティングしてくれればよかった。ただ、体調は最悪だったので、本心ではホッとしたところもありました」

 現在は、すっかり健康状態も回復。週3回の人工透析があるものの、事務所にはひっきりなしに政界からスポーツ界の重鎮までが次々と訪れる。その光景は、オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長を辞してもなお、その威光が健在であることを示している。森氏が続ける。

「まさか私が、2024年のパリオリンピック・パラリンピックを見ることができるとは思ってもいませんでした。2020東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を辞任した時には体調は最悪。いつお迎えが来てもおかしくないほどでした。でも私には、スポーツの世界に恩返ししたいという信念がありました。それが、無報酬でも最後までオリンピック・パラリンピックの成功に向けて奔走した真意です。本来ならIOCの規定ですと年間2000万円ほどの報酬がもらえることになっていたようです。ですが、私は金をもらえるから組織委員会の会長をしていると思われることが心外でしたから最後まで無報酬を貫いたのです。

 おかげで、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長からも今回のパリオリンピックの招待状が丁重なメッセージと共に送られてきました。これは実にうれしかった。オリンピック・ファミリーという言葉が適当かどうかはわかりませんが、バッハ会長や(ジョン・)コーツ調整委員長とは、新型コロナウイルスでの対応や酷暑での開催を念頭に非常に厳しいやりとりもありました。また組織委員会の会長を不本意な形で辞めたにもかかわらず、仲間として認めてくれていることには感謝の念しかありません。

 元々IOCは2014年12月に『アジェンダ2020』という改革案を打ち出しました。これには40の提言が盛り込まれていて、中でもシンプルかつ簡素なオリンピックを目指すという方向性が示されていた。2020東京オリンピック・パラリンピックでは、このアジェンダ2020の精神を、世界に発信しなければいけなかった。すでにラグビーワールドカップ2019は世界的にも非常に高い評価を得ていました。もし失敗したら『ミスター森はラグビーばかりにご執心だった』と批判されかねない。失敗は絶対に許されませんでした。ラグビーに続いてオリンピックも成功すれば、日本の底力を示せることになる。国の威信をかけて、私はラグビーワールドカップにもオリンピック・パラリンピックにも全力を傾けて、成功に向けて邁進したのです」

 かくしてコロナ禍の厳戒体制にもかかわらず、2020東京オリンピック・パラリンピックは安全面からもアスリートへの配慮が行き届いた大会として世界から称賛される結果となった。くしくもパリ五輪の会場からも「東京大会はよかった」という選手たちの声も届いているという。日本の「おもてなし」の精神は世界で大きく評価されているのだ。

森喜朗(もり・よしろう)1937年生まれ。早稲田大学卒業。1969年、衆院議員初当選。2000年に内閣総理大臣に就任。2005年、日本体育協会会長に就任。2006年、日本ラグビーフットボール協会会長に就任。2010年、ラグビーワールドカップ2019組織委員会副会長に就任。2012年、代議士引退。その後、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長、日本財団パラリンピックサポートセンター最高顧問、日本ラグビーフットボール協会名誉会長などを歴任。

カテゴリー: 政治   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
長与千種がカミングアウト「恋愛禁止」を破ったクラッシュ・ギャルズ時代「夜のリング外試合」の相手
2
暴投王・藤浪晋太郎「もうメジャーも日本も難しい」窮地で「バウアーのようにメキシコへ行け」
3
日本と同じ「ずんぐり体型」アルプス山脈地帯に潜む「ヨーロッパ版ツチノコ」は猛毒を吐く
4
侍ジャパン「プレミア12」で際立った広島・坂倉将吾とロッテ・佐藤都志也「決定的な捕手力の差」
5
怒り爆発の高木豊「愚の骨頂!クライマックスなんかもうやめろ!」高田繁に猛反論