自民党総裁選(9月12日告示、27日投開票)に向け、上川陽子外相は8月25日、「20人をはるかに超える支持を得た」と語り、立候補に必要な国会議員20人の推薦のメドがついたことを明らかにした。「誰を推薦人にするか、詰めの作業をしている」という。
旧宏池会では上川氏のほか、林芳正官房長官が立候補の意向を示しており、異例の2人出馬という事態となる。
旧宏池会(46人)会長は岸田文雄首相だ。
「本来、出身派閥の首相が出馬辞退となれば、その派閥は一回休みとして、自粛してしかるべき」
さる閣僚経験者はそう語るが、にもかかわらず、林氏と上川氏が出馬するのはなぜか。宏池会関係者によると、小泉進次郎元環境相や小林鷹之前経済安全保障担当相ら40代の候補が出馬を予定する状況下、「忘れ去られた存在」にならないためにも、候補として名乗りを上げようとしている…というのだ。
それでも「2人同時に出る理由はどこにあるのか」との疑問が残る。林氏は宏池会の座長として事実上のNo.2だった。岸田首相の「後継」として林氏が出馬すれば、上川氏は見送るのが通例だが、そこには岸田首相の意向もあると、先の宏池会関係者は解説する。
つまり、岸田首相は「一兵卒」として総裁選に臨むと表向きは語っているものの、影響力は残したい。林氏が勝てないまでも善戦すれば、林氏の力が増す。相対的に岸田首相の存在感は霞むことになる。
林氏は旧宏池会会長だった古賀誠元幹事長と近く、岸田首相とはもともと距離がある。
「岸田首相とすれば、林氏を牽制するためにも、上川外相に出てもらった方がいいとして、立候補を後押しした」(自民党関係者)
というわけだ。
林氏は2012年の総裁選にも出馬したが、「振り返れば林芳正」と揶揄されたように、5人中5位と惨敗。このままでは再び惨敗を喫し、二度と名乗りを上げることができなくなるかもしれない。
小林氏と小泉氏の「KK対決」がクローズアップされる中、東京大学卒、ハーバード大学大学院修了という小林氏と同じ経歴を持つ林、上川両氏のさや当ても、自民党内では秘かに注目されている。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)