安部は生涯に9人もの伴侶を得た。訃報に接し、現在の美智子夫人は晩年の様子をこう語っている。
「15年に大腸ガンを摘出し、仕事を整理した。昨年暮れに肺への転移が見つかり、肺炎を繰り返して体力が落ちていきました」
それでも、テレビを見て怒りや激しい感情をぶちまける「硬骨漢」に変わりはなかったという。
さて、91年6月20日号の対談のゲストは、8人目の妻だったまゆみ夫人である。前年暮れに離婚し、この年の4月に「まだ懲りないの安部譲二さん!」を上梓したばかりの前夫人との異例の対面となった。
安部 何だお前、別れたとたんにいろんなドレスを買い込むねえ。
まゆみ フフフ。私ね、別れたとたんに若くなった、若くなったって、皆さんおっしゃってくださるよ。逆に、あなたはとたんに老けたもんね。
安部 オレ、そんなに老けたか?
──このように終始、前夫人にペースを握られっぱなしだったが‥‥。
安部 今度、もしオレに女ができたら、それも中に入れてやって、皆で仲良く住んで、お食事も当番で作って‥‥。
まゆみ やなこった。そんなの自分がいいだけじゃない。悪いけど、あたしはもっと自由にしていたいの。
安部 そんなこと言わないで。恨みつらみを乗り越えてさ、“安部譲二の会”っていうのを作って、オレを縦糸にして皆集まろうよ。
まゆみ 女は皆オレのものだと思ってるのね。
この憎めなさこそ、生涯にわたって色恋が途切れなかった要素であろう。
そして対談連載は、87年3月12日号の第1回と91年8月15日号の最終回に同じ人物が登場している。安部がこよなく愛したプロ野球界の一匹狼・江夏豊である。
安部 オレの知ってるプロ野球選手がね、「江夏が巨人に入っていれば40勝できた」って。
江夏 今だから話すけど、ジャイアンツからも話があった。
安部 えっ!? いつ!?
江夏 阪神から出る時。長嶋監督の時(第1次政権)ですよ。
安部 行ってたらどうだった?
江夏 どうでしたかねぇ。
安部 ボール球2つ投げると、動物園のクマみたいにベンチをウロウロする監督だから、マウンドでイヤになったと思うよ。
江夏 ウーン、行かなくてよかった。
こうしたシャープな視点と歯に衣着せぬ物言い、それらを支える博識ぶりは、アウトロー作家として貴重な個性だった。いや、男として、まだまだ追いかけたい背中であった。
週刊アサヒ芸能での連載を心の底から感謝し、そして楽しんでいた笑顔に、合掌──。