ドジャースの大谷翔平が、また「漫画超え」の記録を作った。過去に5人しか達成したことのない「年間40本塁打40盗塁」、いわゆる「40-40」の偉業を、同一試合で達成したのだ。
その瞬間は、8月23日のレイズ戦に訪れた。4回の攻撃中に二塁への盗塁を決めて40まで伸ばすと、3-3の同点で迎えた9回二死満塁から、初球をバックスクリーン右側に運ぶ満塁サヨナラ本塁打。大谷にとってメジャー移籍後初となる満塁サヨナラ殊勲弾がなんと、今季40号目だったのである。
過去の「40-40」達成者5人の顔ぶれを見ると、バリー・ボンズやホセ・カンセコ(一卵性双生児の兄がかつて、近鉄バファローズ所属)、アレックス・ロドリゲスなど、日本人メジャーリーガーの試合を専門に見ている人でも「名前だけは聞いたことがある」であろう名選手揃い。そこに大谷が史上最速で、6人目として加わった。
だが大谷の喜びは「40-40」達成よりも「サヨナラ本塁打」にあったようだ。なにしろ試合後のインタビューでは、
「なにより、最後に打てた。勝てたことがドジャースに来てからの一番の思い出」
勝利打点を挙げたことを、真っ先に喜んだのである。
やはり大谷でも思うところがあったのだろう。ドジャースファンの視点で見ると、今季の大谷は「個人記録は伸ばしても、チームの勝利に貢献していない指名打者」だったからだ。
8月26日時点の数字を見ると、打率2割9分2厘、94打点、148安打、41本塁打と、三冠王も射程圏内の圧巻の成績。だが得点圏での打席に限ると、打率2割4分2厘、42打点、26安打、3本塁打と、10年7億ドルの契約金に見合う成績だとは、お世辞にも言えない。
それだけに、スタンドから「MVPコール」が湧き上がる景色を、
「トップクラスの思い出。本当に嬉しかったですね。なにより1試合1試合が大事なので、そこで勝てたっていうのは」
大谷にしては珍しく饒舌に語ったのである。
だがスタンドの歓声のように、逆転グランドスラムで華を添えた「40-40」だけでは、年間MVPの獲得は難しい、との見方がある。というのも、「40-40」は光より影の方がクローズアップされる記録でもあるからだ。
メジャー史上初の「40-40」を達成したお騒がせ男カンセコをはじめ、ボンズもA・ロッドもその後、筋肉増強剤の使用疑惑が浮上。ボンズは野球殿堂入りの資格を喪失している。
大谷に向けられたファンの目は、そんな「40-40」には満足せず、すでに史上初の「50-50」へと転じている。ハードルが上がったのだ。
すなわちボンズやA・ロッドといった名選手でも筋肉増強剤にすがらなければ達成できなかった記録を、「リハビリ中」の大谷が「50-50」に塗り替えるという「漫画超え」の活躍が、プレーオフとワールドシリーズまで求められることになる。異次元の大スターはツライのである。
(那須優子)