幼い頃、お化けや幽霊、怪談といった「怖いもの」が、とにかく苦手だった。毎週のお楽しみであるドリフターズの「8時だョ!全員集合」も、夏になるとお約束のようにやっていた怪奇もののコント(客席の子供たちが「志村!後ろ!後ろ!」とワーキャー騒ぐアレ)だけはどうしても見ていられず、コントが終わるまで他のチャンネルにしたり…。
そんな私だが、歳を重ねるにつれ、怖がりが多少は薄れ、いつの頃からか怪談、特に実話系と呼ばれるものを好んで読むようになった。
特に都市伝説や未解決事件、考察系といった類が好きで、一時期はYouTubeでその手の動画ばかりを見ていたことがある。
ある日、オススメとして挙がったも中の、異様なサムネイルが目を引いた。目と口と思しき箇所に丸い穴が開いただけの白い仮面を付け、全身黒タイツで性別もよくわからない。それが「雨穴」(うけつ)というYouTuberだった。
知らない方のために簡単に説明をすると、雨穴とは今年3月に公開されて大ヒットを記録した映画「変な家」の原作者で、覆面ホラー作家兼YouTuberだ。
動画を見て即、雨穴の作風が気に入り、あまり頻度が高くはない新作動画のアップを心待ちに。「変な家」「変な絵」「変な家2」も全て発売日に購入した私だったが、その後の「変な家」のコミカライズ、さらに映画化までしたのには正直、驚いた。
動画「【不動産ミステリー】変な家」の再生回数は現時点で2330万回。その他の動画も軒並み数百万回を超え、最新の動画「【雨穴ホラーミステリー】あの日、彼らは何をした」は、公開1カ月で522万回再生。書籍に関しては「変な家2」は2024年上半期ベストセラー第1位(日販調べ)に輝き、第4位には同シリーズ既刊の「変な家」が入る。「変な絵」は第7位にランクインした。文庫部門では「変な家 文庫版」が第1位という快挙だ。劇場版「変な家」に至っては、興行収入が50億円を超えたというのだから、とんでもないヒットメーカーといえる。
雨穴の作品はホラー風味はあるものの、どちらかというと謎解き要素が強い、ミステリー寄りのものがメイン。だから怖いものに耐性ができたとはいえ、お化け屋敷的にただ驚かせるだけの手法や、血みどろの残虐描写はいまだに苦手な私も(謎解きや考察が必要なミステリーは大好き)しっかりハマッたわけだ。さらに言うなら、雨穴作品にはどこか人の業や性、悲しみなんかが根底に流れていて、そこも魅力的だ。
さて、そんな雨穴が先日、アニメ「クレヨンしんちゃん」とコラボした。これはちょっとした快挙だ。「夏の終わりはホラー見れば~?スペシャル」と題し、「オラは見た!カスカベ都市伝説ガチャガチャ人間だゾ」と「変な家族だゾ」の2本立て。
どちらもホラー作品で、「変な家族だゾ」は雨穴が脚本を担当し、さらに劇中で本人役としても出演したのだった。「クレヨンしんちゃん」のメイン視聴者と思われる子供たちに、どれだけ雨穴が知られているかは疑問だが、大人にもファンが多い(特に劇場版は大人からの評価が高い)長寿アニメだけに、放送前から大いに話題になっていた。
ラストシーンは少々考察が必要なオチ。私は劇中の雨穴は「今は大人になってしまったけど、かつてはしんちゃんと同じ子供たちの意識の集合体だった」ということではないか、と感じたのだが、どうだろう。
子供向けアニメにまで進出した雨穴。今後はどんな活躍を見せるのか。ひとりのファンとして楽しみだ。
(堀江南)