巨人投手の通算勝利数で、ようやくあの江川卓に並んだのは、菅野智之だった。首位攻防戦となった9月10日の広島戦に先発登板すると、5回57球1安打無失点で14勝目を挙げた。
わずか57球で、しかも被安打1にもかかわらず、回ってきた打席で代打・秋広優人を送られたのは、勝負に出た阿部慎之助監督の大きな決断によるものだったが、
「早めの継投は今後を踏まえての温存とみられましたが、関係者によると、熱中症の症状が出たからだといいます」(スポーツ紙デスク)
昨年はキャリアワーストの4勝に終わり「限界説」が囁かれたが、今年は2018年以来の「15勝」が現実的になってきた。2018年は2回目の「沢村栄治賞」を受賞しており、3回目を期待する声が広がっている。
では実際に、菅野が沢村賞を獲得する可能性はどれほどあるのか。今のところ有力視されるライバルは中日・高橋宏斗、阪神・才木浩人、DeNA・東克樹、ソフトバンク・モイネロらだが、どの選手も一長一短がある。
沢村賞には選考基準として登板試合数、完投試合数、勝利数、勝率、投球回数、奪三振、防御率の7項目があり、どれも一定以上の数字が求められている。近年は投手の分業化が進んで完投試合数が減ったこともあり、「クオリティ・スタート(QS)」の達成率が補則項目として加えられた。この数字だけを見れば「95.7」の東がトップになる。
過去10年の受賞者を振り返ってみると、2020年の中日・大野雄大の11勝を除き、全ての投手が15勝以上をマークした。今季は投高打低で、候補者のほとんどが防御率2.50以下をクリアする横並び状態。菅野があと1勝すれば、沢村賞に大きく近づくだろう。
2019年には巨人・山口俊と日本ハム・有原航平が最終候補に残ったが、完投数は有原が1、山口は0。堀内恒夫委員長はQSを参考に入れているとしながら、
「でもこれを(選考基準に)入れるほどレベルを下げていって、完投なしでもいいとなると、沢村さんの名前に傷をつけてしまう」
結局、1947年から続く長い歴史の中で、5度目の「該当者なし」となった。
菅野のここまでの完投数は、わずか1。大本命であることには変わりはないが、場合によっては6度目の「該当者なし」となる可能性も…。
(ケン高田)