私が新人記者時代、和田アキ子のインタビューをさせてもらったことがある。先輩記者が担当するはずだったのだが別件が入り、急きょ筆者が行うことになった。1984年のことだ。
インタビューはテレビ局内の喫茶店で行われた。主に発売されたばかりの新曲や、当時のテレビの仕事について聞いたと思う。当然、プライベートについても質問するのだが、筆者はここで絶対にしてはいけない質問をした。
筆者は和田についてあまり詳しくなかったものの、数年前に結婚したことは知っていたため、何も考えずに「お子さんは?」と聞いたのだ。その瞬間、隣に座っていたマネージャーが「あっ!」と声をあげる。しかし和田は表情を変えずに「いえ、私はもう子供産めないので」。その瞬間、全てを悟った。
筆者は何度も頭を下げて「すみせん。本当にすみません」と何度も謝罪すると、和田は「大丈夫、大丈夫、気にしてないので」と笑顔で答えてくれた。頭の中が真っ白になった筆者はその後、どんな質問をしたのか、記憶にない。
もちろん、大丈夫のはずはなかった。和田は1981年、結婚直後に子宮ガンの診断を受け、子宮全摘出の手術を受けていた。7年前のテレビ番組で当時を振り返り「死ぬほど泣いた」と涙ながらに語っていた。手術から3年後に受けた筆者からの質問は、おそらく心臓をえぐられるような残酷なものだったに違いない。
当時はインターネットなど普及しておらず、タレントの情報を得るのは難しかったし、和田も表だって手術の話をしていなかったということもあるが、もちろん言い訳にはならない。しっかり下調べをすればよかっただけの話だ。
テレビで和田を見るたびに、自身が犯した大失態を思い出す。和田が筆者の愚かな質問をどんな気持ちで聞いたのか、新人だったから受け流してくれたのか、などなど…。
最近は和田が失言などでバッシングされることが多いが、筆者はとても同調する気持ちにはなれないのである。
(升田幸一)