世の悪徳商法の定番である「1年で出資金が2倍になる」を謳い文句に、会員4万人から約1500億円を集めた健康食品販売会社「全国八葉物流」が出資法違反で摘発され、459億円の負債を抱えて破産したのは、2002年1月だった。
同社の代表を務める田所収名誉会長は「ネズミ講」や「マルチ商法」「ペーパー商法」経験者が集まる会社を渡り歩いてきた人物。会員を前にした講演では、あえてマルチ商法で摘発された「前歴」を隠さず告白した。
「だから私ほどマルチ商法に詳しい者は、日本にはいない。その経験を踏まえ、徹底的にマルチ商法を研究し尽くし、作り上げた」
いわば、摘発されない「新マルチ商法」をブチ上げたのだが、それが八葉物流のシステムだったのである。
折からの健康ブームに目を付けた八葉は、長寿県といわれる沖縄に名目上の本社を置き、「代理店」に対してカニの殻やハチの巣から抽出したエキスを含む健康食品を1セット150万円で提供。会員を本部に紹介すると、その数と商品の売り上げ高により、社内でのランキングがアップし、配当金が上がるというシステムを導入した。かくして代理店を増やしていった「八葉」は、見る見るうちに業績を伸ばしてくことになる。
しかし、実態はしょせん「マルチまがい商法」。そのため、代理店に配当が支払われたのは最初のうちだけ。未来永劫「出資金が倍になる」などという話が続くはずもなく、支払いの滞りをめぐって代理店から「騙された」という声が上がる、お決まりのパターンに。
「実は八葉の被害者の中にはマルチ初心者以上にリピーターが多く、『前回は始めるのが遅かったから儲からなかったけど、今回は早い段階から始めれば大丈夫ですよ』というセールストークにコロッと騙されていた。というのも、マルチ経験者はヘタに予備知識があるため、実はこうした言葉に弱い。むろん悪事を働く連中は、そんなリピーターの心理を十分に理解していますからね。前回の失敗を取り戻そうと、一獲千金を狙い代理店になったものの、結局はまた騙されてしまった被害者が続出したんです」(社会部記者)
この事件では田所氏ほか、幹部数名が逮捕されたものの、下部社員はその大半がお咎めなし。残党らはまたぞろ「前回の失敗を踏まえて生み出した新システム」などと喧伝し、アレンジを加えたノウハウが引き継がれ、それが今もはびこり続けているというわけである。
人間は欲深い生き物だ。だからこそ、人間に欲がある以上、悪徳商法は決してなくならないといわれる。確実に儲かる話を好き好んで他人に教えるお人よしはなかなかいない。悪徳商法に引っかからないためには、そのごく当たり前な常識を胆に銘じるしかないのである。
(丑嶋一平)