バブル真っ只中の時期でさえ、長期金利で5%程度。その後の低金利についてはあえて説明する必要もないが、「元本保証付きで13.3%の高利回りな利殖商品」を謳って7万3000人の出資者を募ったのが、「和牛オーナー商法」の安愚楽牧場(栃木県那須塩原市)だった。
この商法を説明しておくと、一般投資家らに和牛(子牛)1頭をエサ代含め数十万円で購入してもらい、彼らに代わって子牛を育てる。それが成牛になり買い手がつけば、投資家各自にその差額が配当されるというものだ。つまり、牛が売れるまで配当金は入らないが、それでも銀行の定期預金より格段に高い配当が得られるため、タンス預金をするよりははるかに夢があるとして、人気が沸騰。すると「これはオイシイ商売になる」と目を付けた悪徳業者が続々と「和牛オーナー商法」に参入することになったのである。ところがやはり、うまい話には何かがあるもので、
「長期金利で5%いくかいかないかの時代、安愚楽牧場が謳う13.3%の利回りでも耳を疑うのに、追随する業者の中には『2年後には投資額を倍にできる』とPRする輩まで現れた。しかし、蓋を開けたら牛の数がパンフレットに記された頭数よりはるかに少なかったり、中には全く牛を飼っていない業者もいて、全国でトラブルが続出しました。結果、和牛オーナー商法自体が詐欺だとして、大騒ぎになったわけです」(全国紙社会部記者)
資産運用の理論からすれば、儲けるためにリスクを伴うのは当たり前。しかし本当に儲かる話であれば、金融機関がこぞって融資するはずなのだが、安愚楽牧場をはじめとした「和牛オーナー商法」を展開する会社に、そんな形跡はなかった。つまり金融のプロの目には当初から、この商法が自転車操業であり、いつパンクしてもおかしくないと映っていたことは明白だったのである。
ところが、この怪しい商法を煽りに煽ったのが、当時のテレビや新聞、雑誌などのメディアだった。「安愚楽牧場」の三ヶ尻久美子社長は、たびたびメディアに登場。一部の経済評論家らは「元金確実で、しかも年13.3%となれば、もはや他の金融商品を買う必要なし」と大絶賛する。それが被害拡大に繋がる要因になったことは事実だ。
もともとが自転車操業だったことに加え、2010年には口蹄疫問題が発生して、事業は傾いていく。そしてダメ押しとなったのが、翌2011年3月に起こった東日本大震災だった。震災により福島第一原発事故が発生。安愚楽牧場は619億円の負債を抱え、東京地裁へ民事再生法適用を申請する。経営破綻により、被害総額4200億円という戦後最大級となる被害者を出すことになったのである。
(丑嶋一平)