武士道を体得した男がフィリピンで巨悪を倒し、多くの国民を救う。そんな自主映画「ブレイズ・オブ・サン(太陽の刀)」に5億円をつぎ込み、製作発表の場にスケスケの網Tシャツで現れた男は、こう語りかけた。
「マスコミが騒ぐから、入るものも入らなくなり、回るものも回らなくなった。テレビを通じて言いたい。投資家の皆さん、あと6カ月だけ待ってください」
この異例の記者会見を行ったのは、2002年9月に巨額詐欺事件で逮捕された「ジー・オー・グループ」の大神源太会長だった。
「ジー・オー」とはむろん、大神会長のイニシャルだ。大神会長は1997年から2001年にかけて、広告宣伝費に投資すれば高配当が得られるなどと説明し、会員135人から合計約13億円以上を騙し取ったとされる。2010年9月、最高裁で懲役18年の刑が確定した。
ただ、被害者弁護団によれば、発覚当時、同グループが3万3000人から集めた総額は3360億円。しかし事業実態はほとんどなく、最終的に約1500人が106億円の被害債権を届け出たものの、裁判で認定されたのが135人。回収できたのは、わずか5億円だった。
大神会長は被害者からかき集めた金で映画を作ったり、自身のプレミアム・カレンダー(「哀愁編」「アクション編」「セクシー編」など)を販売。さらにはフィリピン人の愛人と暮らす豪邸購入費に充てるなど、好き放題に使いまくっていたことが、裁判で判明している。
「とはいえ、3000億円を超える額ですからね。残金は関係者が持ち逃げしたとも、会長が金の延べ棒にして隠し持っているとも言われましたが、大神会長は口をつぐんだまま。捜査でもわからずじまいで、結局は被害者が泣き寝入りさせられることになりました」(当時を知る社会部記者)
大神会長の口癖は「貧乏人は欲が深い。だから欲を刺激すれば必ず金を出す。一度餌に食いつかせれば、二度でも三度でも食いついてくる」。そして自称「起業家兼俳優」の「世界の救世主」を名乗り、マルチまがい商法を展開していたというわけである。
映画の製作発表時の会見では、
「日本からフィリピンへの送金を楽にできるように、フィリピンの銀行を買おうと思っている」
と語ったのだが、愛人は六本木のフィリピンパブで知り合った元ホステスで、フィリピンに豪邸を建て、毎月彼女に生活費を送金していた。
「つまりは愛人への送金を円滑に行うため、銀行を買収するつもりだったのかもしれません。なんでも彼女のお尻には『源太郎』と書かれたタトゥーが彫られていたといいますからね。相当入れ込んでいたことは間違いないでしょう」(前出・社会部記者)
この大騒動により、大神会長はフィリピンで最も有名な日本人になったというから、なんとも不思議なものである。
(丑嶋一平)