「買えば買うほど儲かる」
なんともキテレツな謳い文句で「未常識経済理論」なるものを生み出した男がいる。黄色いべっ甲のブチ眼鏡にチョビ髭、短い頭髪をポマードで撫でつけた姿は、まるでどこぞのコメディアン。自らを「地球と人類を救う使命をもって天からつかわされた大聖人」と称するのだった。
この人物こそが、全国1万2000人から約350億円を集めたとして、1997年2月に幹部16名とともに詐欺容疑で逮捕された「KKC(経済革命倶楽部)」の山本一郎会長である。「1000万円が150日間で3倍になる」というそのシステムは、「ベーシック」「ゴールド」「ダイヤモンド」という3つのコースから成っていた。
いわゆる「ねずみ講」が2人以上の倍率で後続会員を増やすのに対し、KKCは入会して出資金を払い、新入会員を1人増やすだけなのが特徴だ。出資金は現金ではなく、KKC認定の健康食品を購入させ、在庫を持たせず、ノルマも課さず、商品のクーリングオフにも応じる。法律に触れない対策を講じてはいたものの、要はねずみ講とマルチ商法、さらにはペーパー商法をミックスしたものだった。これが「未常識経済理論」だというのだが…。
KKCはそうして集めた金をインドネシアの石油や、バブル崩壊後に入手した様々な絵画、さらには土地建物などの事業に投資し、そこから高額な配当を生み出しているとしていたが、
「口コミで集まった被害者の多くは中高年女性で、山本会長が耳を疑うような『未常識経済理論』をブチかますと、誰もがたいがい、キョトンとなる。するとサポート役を務める山本会長の妻がすかさず登場。『みなさ~ん、この顔が人を騙すように見えますか。むしろ騙される顔ですよね~』と場をなごませ、話を盛り上げていく。まるで夫婦漫才のような雰囲気に、すっかりソノ気にさせられた女性は多かった」(社会部記者)
ところがそんな事業実態はなく、逮捕・起訴された山本会長は、懲役8年の実刑判決を受けて、北海道の月形刑務所に服役することに。
KKCが会員から集めた350億円のうち、配当として支払われたのは約160億円。43億円は逮捕時、裁判所により差し押さえられているのだが、そうなるとKKCが儲けた金は単純計算しても約150億円になる。
山本会長は2007年に出所したが、服役で懲りたどころか、出所後すぐに、有限責任事業組合「経恵志(ケイケイシー)」なる会社を設立。その後、東京都台東区で「競球ホールディングス」を立ち上げ、「競球」という新たな賭博事業に投資すれば高配当が得られるとして、無資格で約1億1000万円の預託金を集めることに。またもや世間を騒がせることになる。
山本会長が作り上げた「ビジネスモデル」は、現在も同業者のバイブルになっているという。
(丑嶋一平)