会社の上司で発言がブレる人がいるとしよう。部下の評価は「ダメな上司」ということになるが、これが一国の総理大臣だったら深刻だ。残念ながら、わが国はそういう人物を総理大臣に選んでしまった。自民党新総裁・石破茂氏のことである。
石破氏は衆院の早期解散・総選挙には慎重だったはずだが、総裁になった途端、新幹事長・森山裕氏の進言で、10月27日総選挙に踏み切ることにした。
石破氏は8月24日に総裁選に出馬表明した時点では、解散には触れていなかった。早期解散を提唱したのは小泉進次郎氏だったが、石破氏は9月14日の日本記者クラブの討論会で、こう言い切っていた。
「解散で衆院議員がいなくなることはよく認識した方がいい。世界情勢がどうなるかわからないのに、すぐ解散します、という言い方は私はしません」
翌15日のNHKの番組でも、
「自民党の都合だけで勝手に決めてはいけない。それほど重いものだ。その時の政治情勢がどうなっているかを併せて考えないと『今すぐやります』という話にはならない」
つまり、解散前に有権者に判断材料を提供すべきと主張し、衆参両院本会議での所信表明演説に続き、各党の代表質問に加え、予算委員会で与野党論戦する立場だった。
さらに言うと、石破氏はもともと「解散は憲法69条に基づき、内閣不信任案が可決された時に限るべき」との持論を持っていた。
ところが総裁になると、それが一変。9月29日のフジテレビの番組では「早ければ早い方がいい」と述べ、早期解散を明言した。
元衆院議員の宮崎謙介氏は9月28日のABCテレビの番組で、石破氏について、
「党内野党としての批判が売りだった。リーダーになって発言がブレる? ブレない?」
と不安視したが、早くも「ブレる男・石破茂」の本領を発揮してしまった。
裏金議員や旧統一教会系議員をうやむやにしたままの新政権のボロが出ないうちに、なりふり構わず解散に突っ走る自民党。石破氏が「党内野党」だったら、必ず次の言葉を言うだろう。「嘘つき」と。
(山田健一/政治ジャーナリスト)