過去の衆院選には「バカヤロー解散」(1953年)や「ハプニング解散」(1980年)などの印象的なネーミングが付けられたことがあったが、10月27日投開票となる衆院選は「嘘つき解散」と呼ばれることだろう。
自民党の石破茂新総裁は首班指名が行われる前日、9月30日の記者会見で「新政権はできる限り早期に国民の審判を受けることが重要だ」と述べ、衆院選を10月15日公示、10月27日投開票の日程で実施する方針を表明した。
9月の自民党総裁選では早期解散を唱える小泉進次郎氏に対し、慎重論を展開していたその人が、いきなり方針転換した形だ。
石破氏は9月14日の日本記者クラブ討論会でも、こう断言していた。
「国民が判断する材料を提供するのは首相の責任。本当のやり取りは(国会の)予算委員会だ。すぐ解散するという言い方はしない」
早期解散を唱えていた小泉氏とは対照的な、ベテラン政治家らしい発言として、石破氏のイメージアップにつながったはずだ。
それからわずか半月、石破氏は小泉氏の主張に沿って、早期解散に踏み切った。野党のある幹部は、
「こういう時は『君子豹変する』とは言わない。『どの口が言うか』という表現がぴったりだ」
とコキ下ろす。
国民民主党の玉木雄一郎代表も、Xへの投稿で皮肉った。
〈石破さんはこれまで、政権の都合による「憲法7条に基づく解散」に反対していたのに、早速考えを変えたのか。自民党を変える前に石破さんの方が先に変わっている〉
石破氏は「党内野党」として民放テレビ番組に出演し、「野党の理解も得なければならない」と、その独特の「ねばねば構文」で、時の政権を批判していた。
今回の解散は、野党の態勢が整わないうちに解散してしまえ、という乱暴なやり方である。自民党内にはさっそく、失った国民の信頼を取り返すのは容易ではない、との危惧が広がっている。
石破口調で言うと「半月前に言っていたことと真逆のことをすると、国民の政治不信を招く。そういうことは避けねばならない」ということになるが。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)