先日、浅草キッド・玉袋さんのラジオ番組にゲスト出演された西島秀俊さんが、学生の頃から殿の大ファンであり、「ビートたけしのオールナイトニッポン」は欠かさず聞いていた、といった話をされていました。
さらに、殿と軍団さんのエピソードの中でも、「ここに停めておけ」と、殿から指示を出されて1人残された運転手が、何度やっても駐車することができず、困ったあげく、軍団の若手を緊急招集して、数人で車を持ち上げて車庫入れした、といったエピソードが軍団らしくて大好きだったとも話されていました。
わたくしも、“軍団らしさ”が、よく表れているこのエピソード大好きです。
で、「殿と車」といえば、わたくしも忘れられない思い出が1つ──。
今から8年程前、その日、殿は都心からかなり離れた、“見事な田舎”のロケ現場に、納車されたばかりのスーパーカーをご自分で運転されて、やってくることになっていました。
殿の車に同乗している付き人から、「そろそろ着きます」と連絡が入り、到着を今か今かと待ちかねていると、遠くのほうから、乾いたエンジン音をうならせ、かなりアクセルを踏み込んで、激走しながら走ってくる殿の真っ赤なスーパーカーが現れたのです。緑豊かな田舎の一本道を真紅のスーパーカーで走ってくるその姿は、まるでCMのようであり、みな、うっとりと殿の走りを眺めていました。
で、無事に到着された殿は、市道より少しばかり高い位置にある駐車場へ車を入れるべく、一気にスピードを落とすと、実にゆっくりと駐車場へ車を滑り込ませたのです。が、この時、あまりにも車高の低い殿のスーパーカーは、市道と駐車場とのわずかな段差に引っ掛かり、フロント部分を軽くこすってしまいました。
あらかじめ注意を払い、ゆっくりと駐車場に入ってきたにもかかわらず、まっさらなスーパーカーに傷をつけてしまった殿は、よっぽどショックだったようで、はっきりと肩を落として車から降りてくると、もうその後は、撮影中も終始テンションが恐ろしく低く、かなり巻き気味に撮影を終わらせると、予定していた夜の食事会もキャンセルして、
「今日はもうまっすぐ帰るわ」
と、小さく漏らし、帰りはみずからハンドルを握ることもなく、弟子の運転手に運転を任せて、静かに帰っていかれたのでした。
後日、殿のスーパーカーを運転して帰って行った弟子に、「殿、かなり落ち込んでたようだけど、大丈夫だった?」と、質問を浴びせると、「はい。帰りもずっと落ち込んでまして『ちくしょ。これだから田舎は嫌なんだよ‥‥』と、こすったのを田舎のせいにしてました」「あっそう(笑)。あと昨日現場に来る時、結構飛ばしてたけど、殿っていつもあんな運転するの?」と、さらに質問を追加すると、
「いえ。いつもは凄い安全運転です。昨日は北郷さんたちが見えた途端、アクセルを踏んでました」「あっ、そう(笑)」
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!