欧州で苦難のシーズンを送っているのは、ブンデスリーガ(ドイツ)のバイエルン・ミュンヘンに所属する、サッカー日本代表のDF伊藤洋輝だ。
2023-2024年シーズンにシュトゥットガルトの主力として、大躍進に貢献。チームはリーグ2位に入り、15年ぶりにチャンピオンズ・リーグの出場権を獲得した。サッカーライターが解説する。
「伊藤の活躍に目をつけていたのは、今季から名門バイエルンの指揮官に就任したヴァンサン・コンパニ監督でした。センターバックとサイドバックを任せられてビルドアップの精度が高く、攻撃の起点になれるため、3000万ユーロ(約50億円)の移籍金を支払い、新体制の補強1号として迎え入れたのです」
ところが伊藤は7月28日のデューレン(ドイツ4部相当)との練習試合で、中足骨を骨折してしまう。
いきなりの長期離脱を強いられてリハビリ生活が始まると、9月末にようやくランニングメニューを開始。翌週にはボールを使ったトレーニングを再開することができたのだが…。
伊藤がチーム練習に合流し、試合出場は時間の問題だと思われた矢先の10月中旬、ランニング中に足の痛みを訴えて、練習を切り上げた。コンパニ監督は「焦ることはない」と励ましていたというが、11月5日にクラブは中足骨の再手術を発表。年内復帰は絶望的な状況になってしまったのだ。
無念の戦線離脱中、クラブ内の「序列」はめまぐるしく変わっていた。
シーズン序盤に容赦ない批判を浴びたのは、韓国代表DFキム・ミンジェだ。伊藤のケガ、そして開幕直前にオランダ代表DFマタイス・デリフトがマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に移籍したことで、棚ボタのレギュラー奪取となった。
「ところがキム・ミンジェは失点シーンに絡む場面が多く、そのたびに『伊藤待望論』がメディアで持ち上がっていました。そうした背景があり、伊藤は復帰即レギュラー確約と思われていたんです」(前出・サッカーライター)
それが再離脱によって、今度は伊藤への風当たりが強まることに。サッカーライターが続ける。
「リーグ戦を10試合消化したところで、バイエルンは8勝2分の無傷で首位を快走。キム・ミンジェが次第に自信と調子を取り戻し、安定感のある守備を見せるようになりました。メディアが手のひら返しで絶賛する一方で、一度ならずとも二度も手術に踏み切り、シーズンを棒に振っている伊藤には『高すぎる買い物だった』と。メディアだけでなくサポーターの間でシラけムードが漂い、期待外れのレッテルを貼られているんです」
ビッグクラブゆえの強烈な批判を跳ね返すには、ピッチで実力を証明するしかない。今シーズン中に、伊藤の雄姿を見ることはできるか。
(風吹啓太)