井上尚弥をはじめ、数多くの世界チャンピオンが誕生し、日本ボクシング界は黄金時代を迎えている。そんなボクシング界の興隆に大きく貢献した人物が、帝拳プロモーションの本田明彦会長だろう。かつて本田会長が発した、どうにも忘れられないひと言がある。
それは1994年、J・フェザー級(現スーパーバンタム級)のホープ、葛西裕一の世界タイトル挑戦のための強化合宿を取材した時のことだ。夜の酒席でボクシング談義となり、本田会長は世界のボクシング事情や、日本のボクシング界の課題について熱く語ってくれた。
この頃の日本は世界チャンピオン不在の「冬の時代」から抜け出し、辰吉丈一郎に続くスター選手の誕生を期待されている状況だったと思う。そこで筆者は聞いてみた。
「やはり日本の選手は海外の選手と比べて、ハングリー精神みたいな点で負けてるんですかね」
今思えば、素人のような質問なのだが、本田会長からは意外な言葉が返ってきた。
「それは違いますよ。日本の選手は世界一、根性があります」
筆者が「え、そうなんですか」と聞き返すと、本田会長は畳みかけるように言う。
「日本ではいくらでも仕事が選べる。それなのに、こんなキツいことをやってるんですから」
このポジティブな言葉に、目から鱗が落ちたような気がした。
その後、畑山隆則、内山高志、山中慎介、長谷川穂積、村田諒太など素晴らしいボクサーが続々と誕生。現在は9人もの世界王者がいる。
モンスター井上は、テクニックやパンチ力もさることながら、「ハートの強さ」が傑出している。本田会長が指摘したように、日本の若者の根性は捨てたものではないのだ。
(升田幸一)