「なぜ安全保障の懸念があるのか、きちんと述べてもらわなければ、これから先の話にならない」
アメリカ政府に対し、そう言って啖呵を切ったのは、石破茂総理だった。バイデン大統領が、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を阻止する命令を出したことについての、1月6日の三重県伊勢市での会見での発言だ。
だが石破総理は、この決定を覆すことができる唯一の人物、トランプ次期大統領との早期会談には腰が引けている。6日夜の「プライムニュース」(BSフジ)に出演した際、
「なるべく早くアメリカに行くにこしたことはないが、日本として何を言うべきか、きちんと戦略を練らなければならない」
そう語り、トランプ氏が就任する前の1月中旬の訪米を見送って、2月以降にした理由を説明した。
石破総理は当初、トランプ氏当選直後の訪米を模索した。だがトランプ氏側から、ローガン法に基づき、就任前の外交交渉は制限されているなどと説明があり、見送った経緯がある。この際、わざわざローガン法を取り寄せて会談できない理由を説明させたのが、石破総理だった。
ところがトランプ氏はイタリアのメローニ首相をはじめ、各国首脳と会談している。さらには、安倍晋三元総理夫人の昭恵さんとも夕食をともにした。これに焦った官邸では1月中の会談を模索する動きが出るなど、迷走を繰り返した。
自民党の閣僚経験者は、悲壮な表情でこう話すのだった。
「日本国内で啖呵を切るよりも、トランプ氏に直談判して決定を覆してほしい。それができるのは石破総理しかいないが、本人に自覚があるのだろうか」
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)