自らの死期を悟った猫は、必死に飼い主に別れを告げようとするといいます。死の瞬間まで、今か今かと飼い主を待ち続ける…。
そんな例はいくつもあります。そもそも、ガンで2021年11月に死んだ我が家のジュテ(写真左)がそうでした。最後は酸素室に入れたりして、少しでも長く生き延びてほしいと願って見守りました。死んだ当日は朝から部屋を徘徊し、気分がよさそうにしていました。それを見て、今のうちに仕事をこなそうと外出しました。
ところが夕方近くになって、連れ合いのゆっちゃんから電話が…。「ジュテが、ジュテが…」と言うだけで、言葉になりません。そして「今すぐ帰るから」とだけ伝え、タクシーを飛ばしました。
玄関のドアを開けると、ゆっちゃんは「ジュテが」と泣いています。すぐに腕からジュテを引き取ると、ジュテのピンクの唇が二度ほど小さく動きました。もう息はなかったのかもしれません。あの時の感情は言葉になりません。ジュテは最後の最後まで、帰ってくるのを待ってくれていたと、今も思っています。
平岳大さんにも同じような話を伺いました。平さんは昨年、真田広之主演の配信時代劇「SHOGUN」で、テレビ界のアカデミー賞といわれるエミー賞で助演男優賞にノミネートされました。ノミネート発表後の大忙しの時にインタビューをお願いし、快諾してもらいました。取材依頼の際には猫のことをぜひ聞きたいと、お願いしました。
実はたいぶ前のことですが、平さんがロケ中に出会った猫のことを、新聞が取り上げました。その記事をずっと記憶していたのです。平さんはその猫をホテルに連れて帰り、お腹をすかしていたので、コンビニでハムのようなものを買って食べさせたそうです。
その猫はハムをおいしそうに、ガツガツ食べました。そして「おいしい、おいしい」と言っているように聞こえた、というのです。「おいしい」としゃべる猫。なんて面白い話だろう。いつかその話を聞いてみたい、と。平さんはその猫に「サモン」という名前をつけて、今もかわいがっています。本当に「おいしい」と聞こえたそうです。
平さんはその前から飼っていた猫のことも話してくれました。浅草・雷門にいたホームレスのおじさんからもらった猫で、名前は「サンダー」。雷門の下にいたからです。
平さんはコロナ禍の2020年に、ハワイに移住します。それが「SHOGUN」をはじめとする海外の仕事をするキッカケになりました。
2023年の年明け、フィリピンでロケがありました。サンダーはとても元気な猫だったのですが、帰国した時になぜか骨と皮だけのガリガリになっていたそうです。そしてサンダーは平さんが帰るのを待っていたかのように、腕の中で息を引き取ったというのです。
サンダーを引き取ったのは、大河ドラマ「篤姫」(2008年)の時、サモンを引き取ったのはNHK BSプレミアムの連ドラ「塚原卜伝」(2011年)に主演した時でした。2匹は平さんにとって、幸運をもたらしてくれた招き猫だそうです。
もうひとつ、昨年に話を伺ったのは、ムード歌謡グループ「純烈」のボーカル・白川裕二郎さんです。白川さんは売れていない時期から「みかん」という猫を20年近く飼っていました。それがある日、いきなり倒れ、救急病院に連れて行き、診察してもらいました。獣医師の診断は、重度の腎臓病。「余命1週間かもしれない」と宣告されたそうです。
ずっとみかんのそばについていてあげたい。そう思ったものの、純烈は猛烈に忙しい。その時は北海道での公演がありました。夜も朝も心配で心配で、家には何度も「元気か」と容体を確かめました。
北海道の仕事から急いで帰ってみると、みかんは元気にしていたそうですが、そのちょっと後に息を引き取り、虹の橋を渡っていきました。涙ながらに愛猫のことを話す白川さんを見て、こちらも辛くなったほどです。
やはり猫が最後の最後まで飼い主を待つというのは、本当のことではないでしょうか。
(峯田淳/コラムニスト)