ペットとして新しく犬や猫を飼う際に、識別用のマイクロチップ装着が日本で義務化された。これが2022年6月のことだ。行方不明、迷子になるというのは犬よりも猫が多いが、「迷子の猫を捜索します」といったサイトが目立つようになった。
今年1月18日、ところ変わってフランスのプロヴァンス地方にある小さな町ペルテュイでのこと。猫のボランティア団体「自由猫協会」に「瀕死の状態で路上に倒れている猫がいる」との通報があった。協会スタッフが現場に急行し、倒れている猫を保護。マイクロチップを調べたところ、ノエルという名で、20歳のオスであることが判明した。
登録時の情報によれば、飼い主の住所はフランスから約1600キロも離れた南国の地、タヒチだった。しかも登録されたのは15年前であり、登録電話番号は使われておらず。飼い主の捜索は難航を極めることが予想された。
それでも協会スタッフは、瀕死のノエルを前に「なんとかひと目だけでも飼い主に会わせてあげたい」との思いからSNSで愛猫家ネットワークを駆使し、情報を募った。
すると驚くことに捜索開始から24時間後、なんとタヒチから有力情報が寄せられたのだ。ノエルは飼い主夫婦によって、2005年にフランスに移住していたことがわかったのである。
協会スタッフは情報をもとに飼い主夫妻を探し出して連絡。驚いた夫妻は取るものも取りあえず、協会を訪ねた。だがノエルの状態は文字通り半死半生の状態で、すでに痙攣が始まっていた。
フランスメディア「フランス・アンフォ」の取材に答えた、同協会のジュリアノット会長によれば、
「飼い主が現れた時、ノエルは飼い主を認識していたようでした。ただ、すでに痙攣を起こすなど相当に厳しい状態にあった。それでも飼い主がノエルに寄り添い体を撫でてやると、安心したのでしょう。穏やかな表情になり、その数時間後に旅立っていきました。15年ぶりの再会ですからね。もっと長く一緒にいたかったと思いますね」
ノエルが突然、飼い主夫妻のもとから消えたのは、2010年。夫妻はいつか再開できると信じ、何年間もノエルを探し歩いたという。
15年ぶりの、わすか数時間の再会だったが、それでも最後の最後に愛猫に会えた。夫妻は自分たちをノエルに引き合わせてくれた協会に、深い感謝の気持ちを伝えたという。
(灯倫太郎)