社会

フェアレディZの父「片山豊」氏の自動車人生105年

20150312n

 2月23日、新聞朝刊の片隅に〈フェアレディZの父死去〉とベタ記事が載った。日米の自動車文化を発展させた功績をたたえ、日本人4人目の米国自動車殿堂入りした偉人にしては寂しすぎる扱い。その理由とは。

 自動車評論家の国沢光宏氏が語る。

「片山豊といえば、日本では『Zの父』という評価だが、そもそも日本車がアメリカで売れるようになったのは片山さんのおかげです。その意味では本田宗一郎氏と同じぐらいの功績がある人だと思います」

 片山氏は1935年(昭和10年)に日産自動車に入社し、戦後の復興期に宣伝マンとして日本初の自動車ショーを日比谷公園で開催したり、豪州の自動車ラリーにスタッフとして参戦、日本車を初優勝させ、国産車「ダットサン」の存在を広くアピールしたアイデアマン。が、その華々しい活躍の見返りに会社が命じたのは「アメリカ行き」。

「私が30年前にこの仕事を始めた頃も日産は片山氏に対し厳しいネガティブキャンペーンを張っていた。要するに湘南生まれの慶応ボーイという明るい人柄で日本初のモーターショーを立ち上げるなど日の当たるところを歩きすぎ、社内ではやっかまれたということです。それで『アメリカで車売ってこい』となった」(前出・国沢氏)

 晩年の本人も「実際はテイのいい島流しだった」と語っているとおり、当時は、自動車王国・アメリカで日本車が売れるとは誰も考えなかった時代である。しかし片山氏の逆襲はそのアメリカ西海岸から始まった。

「車が壊れても部品がいつ来るかわからない、故障しても保証しない‥‥などアメリカの自動車メーカーにユーザーは不満を抱えていた。そこでまず片山さんは、売りっぱなしではなく喜んで修理し、部品が翌日には届くなどアフターケアのシステムを作った。同時に、アメリカ向けの車を作らなければいけないということで『ブルーバード510』を発売し、現地で受け入れられた」(前出・国沢氏)

 その第2弾が「ダットサン240Z」、日本名で初代「フェアレディZ」だった。発売当初から受注が追いつかないほどの売れ行きで販売台数140万台を超す大ヒットとなったのだ。

「片山さんは、誰でも買えるような格好いいスポーツカーというコンセプトで『Z』を企画した。しかも英国の『ジャガー』の3分の1ほどの価格でアフターサービスも充実していた。日産がこの2台でアメリカ進出に成功したことで、日本の他メーカーも追随したんです」(前出・国沢氏)

 もっとも、片山氏はこれだけの功績を残しながら役員待遇もなく77年に定年退社。その後、日産が90年代に経営破綻寸前となり、96年、「Z」は生産中止となった。が、片山氏が90歳の時に転機が訪れる。日産の再建を旗印に就任したカルロス・ゴーン社長と面談し、ニュー「Z」の復活の約束を取り付ける。そして02年、「ニューZ」の開発アドバイザーとして日産相談役に返り咲いたのだ。

 晩年、片山氏は「Z」愛好家のイベントにも参加したという。今回、全国のZオーナーが本誌に、哀悼のコメントを寄せてくれた。いくつか紹介すると──、

「7年前の宮城のイベントでは『軽くてワインディングロードをひらひら楽しく走れる車が理想だ。若者が買える車じゃないとダメ』と話してました」(山形)

「Zの魅力はズバリ非日常性。もっと早く功績をたたえられるべきでした。『快走』と書かれた片山さんの色紙は大事にとってあります」(静岡)

「自動車は『自働車』、つまり車は乗せてもらうのではなく(にんべんが示す)『人間』が『動』かすものであれ、と言ってました。色紙には『快走』以外にもまれに『快眠』とか『快便』と書き、長生きの秘訣も明かしていました」(栃木)

 戦時中、アルファベット最後の文字「Z」の旗は「あとのない最後の攻撃」を意味した。享年105。まさに「大往生」である──。

カテゴリー: 社会   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
長与千種がカミングアウト「恋愛禁止」を破ったクラッシュ・ギャルズ時代「夜のリング外試合」の相手
2
暴投王・藤浪晋太郎「もうメジャーも日本も難しい」窮地で「バウアーのようにメキシコへ行け」
3
日本と同じ「ずんぐり体型」アルプス山脈地帯に潜む「ヨーロッパ版ツチノコ」は猛毒を吐く
4
侍ジャパン「プレミア12」で際立った広島・坂倉将吾とロッテ・佐藤都志也「決定的な捕手力の差」
5
怒り爆発の高木豊「愚の骨頂!クライマックスなんかもうやめろ!」高田繁に猛反論