藤井聡太の空前の人気により将棋ファンが爆発的に増える現状に対し、囲碁界はどうなのかといえば、これも2023年に自身初となる「七大タイトル」での三冠を達成し、日本囲碁界の頂点に立った若手棋士・一力遼を筆頭に、若手の活躍が目立つ。
特に近年は、世界最年少の9歳(小学3年生)でプロ棋士となった藤田怜央初段をはじめ、仲邑菫二段や藤沢里菜女流本因坊など、小学生棋士が次々に誕生し、記録を樹立。メディアで大きく取り上げられることが多くなった。
とはいえ、日本では囲碁よりも将棋の方が、メジャー競技として大きく扱われる。だが実は、将棋(本将棋)は日本だけで行われている競技。中国人以外は漢字が読めないため、なかなか参入障壁を低くすることができないのだ。さらに欧州ではチェスが普及しているため、あえて将棋にチャレンジしようという人口は少ない。
その点、囲碁は世界中に普及しており、中国や韓国、台湾はむろんのこと、アメリカ、ロシア、ドイツ、イギリスなどでも数万人から数十万人の愛好家がいるとされる。
そんな状況をかつて、ストレートに語った大物棋士がいた。1986年の棋聖戦六段戦で準優勝し、その後も1994年の棋聖戦八段戦で準優勝、1996年の天元戦本戦では準決勝進出。さらに1999年開催の世界選手権富士通杯で本戦出場するなど、2004年には通算500勝を達成した稀代の名棋士、後藤俊午九段である。
それは2018年7月13日の例会でのこと。後藤九段は「将棋界と囲碁界というのは、お隣というよりも非常に仲のいいいとこ同士」と表現し、次のように評した。
「生活の形態が一緒。平日に時間がとれる、不規則な生活、仕事がある人なんて限られていて、皆、暇を持て余しているということで、よく一緒に遊びます」
そして将棋界が藤井聡太効果で大きな盛り上がりを見せる状況を念頭に、こう続けたのである。
「将棋と囲碁を比べて、日本国内では将棋の方が圧倒的に人気者ですけども、日本特有のゲームなので、日本だけなのです。その点、囲碁というのは世界中に広まって、ルールもほぼほぼ一緒です。(中略)人口も全世界規模なので囲碁人口はだいたい5000万人ぐらいはいる。将棋人口は日本でだいたい、700万人ぐらい。世界で見ても701万人ぐらいなので、これ、イメージで言うと、囲碁というのはサッカー、将棋は蹴鞠ぐらいの感じですね。でも現在の日本では、サッカーよりも蹴鞠が圧倒的に人気です」
これは後藤九段が普段から語っていることで、数字も間違いないのだが、初めて耳にする将棋ファンの中には「蹴鞠」という表現に拒否反応を示した人がいたようで…。
それなら囲碁界からも藤井のようなスターを出せばいいのでは…というツッコミが入ったように、アニメ「ヒカルの碁」で一時期、盛り上がりをみせた囲碁界に、新たなスター誕生を期待したい。
(山川敦司)