NHKが攻めまくっている。大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第9回「玉菊燈籠恋の地獄」で、伝説の悲劇の花魁「5代目瀬川」を演じる小芝風花が初恋の相手、蔦谷重三郎(横浜流星)の目の前で上客に奉仕するシーンを熱演したのだ。
高利貸しで財をなした鳥山検校への身請け話が出た5代目瀬川と「駆け落ち」を考える蔦重が、吉原の遊郭「松葉屋」にやってくる。主人の半左衛門がおもむろに襖を開けると、着物を脱ぎ捨てた瀬川のあられもない姿と男性客の喘ぎ声を、嫌というほど見せつけられるのだった。
「どれだけ飾り立てたって、これが瀬川のつとめよ。年に2日の休みを除いて、ほぼ毎日がこれだ」
身請けを断れば瀬川は年季明けまで毎日、昼夜の2回、客を取り続ける現実を知らしめたのだった。
ヤマザキ「ランチパック」のテレビCMで清楚な会社員を演じる小芝のラブシーンだけに、その衝撃は大きかった。
第1話では、過酷な環境で病死した遊女達が着物を剥がされ、そのまま捨てられるシーンが賛否を呼んだ。批判の多くは「子供に見せられない」「女性をなんだと思っているんだ」というポリティカルコレクトネスを盾にしたマウント。だが今回の情交シーンにはポリコレもダンマリだ。それだけ色香漂う小芝の熱演が素晴らしかったのと、眉毛を剃った鬼婆女将、水野美紀演じるいねのセリフが恐ろしくも愛に満ちていた。
「あんたこの先、どうやって生きていくつもりだったんだい。追われる身になってどこに住むんだい。あんた養おうとあいつは博打、あいつ養おうとあんたは夜鷹。(夜の世界で生きてきた女郎の)なれのはてなんてそんなもんさ。それが幸せか? ああ? 幸せか? それのどこが幸せなんだって聞いてんだよ」
「ここは不幸なところさ。けど、人生をガラリと変えるような事が起きないわけじゃない。そういう背中を女郎に見せる務めが瀬川にはあるんじゃないかい。瀬川を背負うというのは、そういうことだと思うけどね」
瀬川が上客の身請けを断れば、体を壊すか性病で命を落とし、他の女郎も5代目瀬川に続いて、富豪に身請けされ自由の身になる機会が奪われる。あの寝取られシーンがあってこその説得力だ。
江戸時代の庶民はそうして身請けされた花魁、年季の明けた女郎に優しかった。家が貧しいせいで親に売られた、不幸な身の上を知っているからだ。銭湯や温泉に行けば、小さな男児でも女性入浴客の体を目にする。なのにNHKドラマのワンシーンに目くじらを立てる現代人こそが、令和の世をつまらなくさせている。
(那須優子)